オリヴィの商業契約論

Pierre De Jean Olivi: Traite Des Contrats (Bibliotheque Scolastique)久々にペトルス・ヨハネス・オリヴィのテキストを眺めている。少し前に出ている、シルヴァン・ピロンによる羅仏対訳本の『契約論(tractatus de contractibus)』(Pierre De Jean Olivi: Traite Des Contrats (Bibliotheque Scolastique), trad. Sylvain Piron, Les Belles Lettres, 2012)。同書の解説によれば、『契約論』はオリヴィの著作としては最後期(1296年ごろ?)に書かれたものではないかということだが、これまたどこか時代に対して先進的な印象で、なかなか面白い。まだ第一部の売買契約についての議論を見ただけだけれど、価格の決定がいかになされるべきかを正面切って論じていて、価格の本質が使用価値にあることや(8節)、その価値が稀少性によって高まること(10節)などをするどく指摘してみせる。一方でその価格決定が共通善に照らして評価されるべきことをも主張し(24節)、つまりは市民社会がその評価をするべき立場にあることも指摘している(26節)。このあたりのバランスは個々のケースによるようで、物資が不足するような事態において売り手がその物資の価格を上げるような場合については、それが共通善に反する(高利をなすなど)のであれば認められないとしているけれど、一方で学問のために高値で買った書物が後に値が下がったものの、当初の価格で転売したいと考える場合や、買い手がつかないために家屋を評価額よりも安く売るような場合については、(社会的な)評価額を逸脱しても不正とは見なされないとしている。全体としての理念(共通善に即した適性価格の考え方)を貫きつつも、オリヴィの考察はなにやら時にとても具体的かつ実利的なものに思える。そういうしなやかさが、ここでもまた印象的だ。