薗田坦『クザーヌスと近世哲学』(創文社、2003)をざっと読む。クザーヌス研究の論集なのだけれど、タイトルにある通り、ルネサンス期のその他の思想潮流にも目配せした良書。もっともそちらは多少大まかな括りになっているのだけれど、ときおりこういう俯瞰的な視線で全体を捉えたものを見ておくのは、細部に拘泥しがちな身にはとても重要かも、と自戒を込めて想う。同書の軸線はクザーヌスの神論に関連したその知性論・知識論なのだけれど、これもクザーヌスの思想的展開において深化していることが示されている(第八章など)。一方で、木彫りの匙の職人などの、スコラ学でも人文主義でもない知(素人的知)の持ち主にも、クザーヌスはある種の創造的製作を見てとっていたという指摘などもある(第四章)。人間の創造性という論点から見たクザーヌス、ということでこれはなかなか興味深い。ルネサンスの「同時代人」(必ずしも厳密に同年代ではないにせよ)もクザーヌス研究の文脈で言及されている。たとえば人間の自由の意識、自立性の自覚という文脈ではピコ・デラ・ミランドラが(第五章)、自然学的な進展(一定の秩序への諸現象の還元)という文脈ではポンポナッツィが取り上げられる(第九章)。さらに魔術をも含む「自然」に感覚主義的・経験主義的にアプローチした者としてテレジオが挙げられている(同)。さらにパラケルスス、そしてドイツ自然哲学の大成としてのヤコブ・ベーメなど……(第一〇章)。同著者は最近ベーメの研究書を出しているようなので、そちらもそのうち覗いてみたい。