ガッサンディのアリストテレス主義批判・世界霊魂批判

Pierre Gassendi and the Birth of Early Modern Philosophyこのところ少し中世プロパーなところから離れたアーティクルが続いているが、それは少しばかり、後世からその時代が回顧的にどう見られていたのかを改めて眺めてみたいと思っているため。というわけで、今度はガッサンディについての概説書を見てみることにした。アントニア・ロロルド『ピエール・ガッサンディと初期近代哲学の誕生』というもの(Antonia Lolord, Pierre Gassendi and the Birth of Early Modern Philosophy, Cambridge University Press, 2007)。ガッサンディの生涯から始まって、その思想をテーマごとにまとめてみせている。個人的にはまだ冒頭のあたりをうろうろしているだけだけれど、ポイントがまとまっていて役立ちそうだ。とりあえず、第二章「ガッサンディの哲学的対立者たち」が面白い。ガッサンディがアリストテレス主義、世界霊魂論、デカルト派などをどう批判しているかをまとめている(以下メモ)。

ガッサンディのアリストテレス主義への批判は多岐にわたっているようだが(とはいえ、たとえば中世の個々の神学者を取り上げるようなことはいっさいしていないのだとか)、その中心をなしているのは、きわめて唯名論的な「存在するのは個物の性質のみ」というスタンス。永遠の真理とか本質に関わる命題というものは条件文においてのみ真理をなす(これはスアレス的な論点とされている)とガッサンディはいい、そこから敷衍するかのように、実体的な「範疇」の存在も否定する。質料形相論についても、形相をかたちやパターンと見なす分にはよいとしながら、その「具象化」は避けるべきだとしている。つまり形相が自然界において能動的原理をなしている、という議論は斥けているということ。ガッサンディは、そもそも被造物が発端となる「二次的因果関係」を認めない。また、形相を作用原理だとするのは一部のアリストテレス解釈者の誤りだとして、原典への準拠の不十分さも糾弾しているという。

そんなわけなので、世界霊魂についても同じような論拠にもとづき批判する。ガッサンディが批判の対象とするのは、ロバート・フラッドなどが唱える「非物質的」な世界霊魂論。それとは別筋の、霊魂をたとえば生命の熱として解釈するような物質論的な人々は批判対象にしていないのだとか。デカルト的自然学についても、たとえば物体の本質は延長だという議論が、非物質的な原理を再度持ち込んでしまうという点で、ガッサンディは難色を示していたという。世界霊魂の批判は、オルタナティブな因果論、すなわちガッサンディが唱える原子論を導き入れることを主眼として展開されている、と著者は見る。