日仏出版交流ミーティング

昨日だけれど、日仏出版交流ミーティングのパネル対談を観に、雨の中を飯田橋まで出かけた。国外での書籍販売の拡充を図ろうとするフランスの世界的なプログラムの一環のようで(こういうのを政府と民間とが一緒になってやるのが素晴らしいところ)、フランスからは主要な出版社から成る代表団が来日した。日本側についても、いろいろな出版社や翻訳者などに声をかけていたようだ(私のような端くれにまで!)。で、この日のパネル対談は、まず河出書房新社とスイユ、次にみすず書房とガリマールのそれぞれ代表が登壇して行われた。なるほど、河出はウエルベック『服従』、みすずはピケティ『21世紀の資本』と、それぞれ売れた本を出していることから、今回はその実績を踏まえての登壇ということなのだろう。でも、話の中味は「これから本を売るということに関して両国でどういう道を探れるか」というような建設的な方向にはいかず、どうも互いの国の出版制度のあらましをおさらいすることに始終していた感じだった。なんだか「売り込んでこられても、今は国内じゃ売れないんだよねえ」みたいな空気が微妙に支配的(苦笑)……。

ウエルベックやピケティの話は発表部分ではあまり触れられず、質疑応答で多少答えるという感じだったのだが、みすずは重訳刊行だったことが多少後ろめたいのか、アメリカで話題になったから飛びついたのではなく、フランスでの刊行当初から注目していたと、少し嘘くさい(?)弁明をしたり、重訳についても、翻訳者の意向を尊重しての決定で、時間的な判断があったのではないし、著者の了承も取ったし、フランスの文学作品の引用は原書を参照している(←ごく当たり前でしょ、それ!)とか少し苦しい言い訳。老舗が重訳刊行したというのは、多方面に影響を及ぼしそうな気がしないでもない。英語圏経由で外国の話題作が登場したときに、英訳があるんだからそれからの重訳でも構わないという風潮がさらに蔓延したりしないだろうかとか、あるいは英語圏経由での話題作しか扱わない傾向になってしまわないだろうかとか……。杞憂ならよいのだが。

でもまあ、人文系の老舗は評価の確立した本を大学の研究者に訳させるというのが従来の基本スタイルだったことを考えれば、そうも言っていられないという感じになってきたのかもしれず、それが新しい動き(新作の発掘や、若い翻訳者の起用など)を呼ぶ可能性がないとも言えない(とポジティブに考えよう!)。みずずの登壇者(こう言ってはなんだが古いタイプ)は、「プロの翻訳者」への軽微な蔑視(?)を言外に含ませつつ、人文学の衰退とか大学の問題とか、その場にいない関係者(文科省とかね)に向かって、つまりは空虚に向かって毒を吐いていたが、そんなところで溜飲を下げても仕方がないわけで、もっと未来志向な話にもっていっていただきたかったと心底思った。その意味では、現状の紹介が主だった河出の登壇者は、最近の傾向として図版を多用したビジュアル系の本が売れるというような話もしていて、多少なりとも発展的な糸口を提示していたのが興味深かった。とはいえ、そういう本からもっと活字主体の本への誘導策をどうするかといった問題が指摘されることはなかったのだが……。フランス側の登壇者の発表については割愛。

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話は変わるが、受付で配られていた資料にフランスの参加出版社の書籍セレクション(パンフ)があり、これにちょっと個人的に気になるものがあったので、メモ。Les Belles Lettresからは、Jean-Baptiste Brenet, Averroès l’inquiétant(不気味なる者、アヴェロエス)。タイトルに惹かれる(笑)。アヴェロエスとアヴェロエス主義は、西欧のラテン世界や合理主義にとっての不気味なる外部をなしてきた、みたいな話なのかな?それ、議論としては結構問題ありそうなのだが、どうなのだろう?実際に書籍を見てみないとね。CNRS Éditionsからは、G. Fumey et P. Raffard, Atlas de l’alimentation(食生活図鑑)。食物と文化的慣習の図鑑とのこと。うまそうかな(?)。Le Seuilからは、三巻本で、Dominique Pestre (éd), Histoire des sciences et des savoirs(科学と知恵の歴史)。第一巻がルネサンスから啓蒙時代、第二巻が近代とグローバル化、第三巻が現代。科学史本だが、最近の諸研究の成果がどれほど入っているのかが気になる。