今年から少し長いスパンで、ヒポクラテス(ヒポクラテス集成)なども読んでいこうかと思っている。さしあたり、わりと一般向けではないかと思われる『空気・水・場所について』(Περι Ἀέρων, ῾Υδάτων, Τόπων)から。これをギリシア語中級用リーダー(Hippocrates’ on Airs, Waters, and Places and the Hippocratic Oath: An Intermediate Greek Reader: Greek Text with Running Vocabulary and Commentary, Evan Hayes and Stephen Nimis, 2013)で読み始めているところ。いきなり校注本でも全然よいのだけれど、まずは必要なボキャブラリーなどを確認したいと考えてこのリーダー本にした。これはなかなかよく出来ている一冊。以前、ここでも取り上げたガレノスのリーダー本と同じシリーズの一冊で、対訳こそないものの、文法のほかに文化背景や思想内容などの解説もちりばめた、結構お得なシリーズ。テキストを読むために必要な情報はすべてテキストと同一ページにあるという、辞書要らずなテキストだ。ヒポクラテスの希語は、基本的にはアッティカ方言ながらイオニア方言の要素を数多く残している。でも冒頭の解説でも触れられているように、これが短縮されていないレギュラーな変化形のように思えて案外読みやすい。また文体的にも、個人的にはガレノスのどこか凝った(?)ものなどよりも取っつきやすい印象。ここでのヒポクラテスは、表題のテーマである空気(風、季節風など)、水(水質など)、場所(地理的条件)などが健康にどう影響するかという観点から議論を進めている。風土病のようなものが念頭にあることは確かだろう。前4世紀ごろの自然学の広がりの一端がここから伺い知れそうだ。