「もう年末」的な雑感

もう年末。時間の推移が速すぎる〜と感じる今日このごろです(苦笑)。それと反比例するかのように(?)、読む速度は相対的にゆっくりになっていて、電子本であっても「積読」状態はいっこうに解消していかない感じ。でもまあ、そんなものなのでしょう。ゆるゆると読んでいく、というのが正しい向き合い方だという気がしています。

今年の年頭くらいに出て、ベストセラーになった『世界はラテン語でできている』(ラテン語さん著、SB新書)が、kindle unlimitedに入っています。これは嬉しい。未読だったのでさっそく見てみました。
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様々な語の語源、意外なところに出てくるラテン語文などなど、よくぞ集めたなあ、というのが第一の感想です。章ごとにテーマに分かれていて、実に広範な分野に目配せしているのもいいですね。ラテン語学習ももっとプロモートされてほしいところですね。古典ギリシア語とかでも、同じような本を作ってほしい気がします。

そういえば、語学アプリのDuolingoも、英語モードにすれば、ラテン語が学習対象の語学に出て来ますね。会話ができちゃうじゃないですか。現代ギリシア語もありますが、古典ギリシア語は残念ながらありません。それも作ってほしいところです。ちなみに、中国語モードにすると、広東語も学べるんですね。でもまだ個人的には北京語ですら初級レベルなので、しばらくはお預け。

kindle unlimitedついでですが、かつて「哲学の劇場」とかやっていたコンビによる『人文的、あまりに人文的ー同人版』というのも入っています。03号が「最後の哲学書」と銘打ったアンケート特集を行っていて、面白そうなのでちょっと見て見ました。
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でもまあ、予想通りというか、小説だって哲学書だ、みたいに反応する人とか、未刊行の自著を挙げる人とか、いろいろいて、ある種のカオスになっていますね。個性的といってしまえばそれまでですが、こういうアンケートもやはり個性の演出・湧出で競うみたいなところがあるので、いかに既定路線(予想される路線)から離れるかが勝負どころになってしまうのでしょう。それなりに著名になった文筆家は、みんなナルシストなんですよねえ(笑)。書店関係者、出版関係者はわりと実直に選び出してくる感じ(でもないか?)。

話は飛びますが、初夏のころに文庫化が話題になったガルシア=マルケス『百年の孤独』。netflixでそのドラマ版が始まっています。

16話構成と聞いていますが、配信されているのは最初の8話ですね。1話めを見て見ましたが、なかなか期待できそうです。
https://www.imdb.com/title/tt9892936/

『百年の孤独』の1972年の邦訳本が、このあいだ古本整理をしていたら出て来ました。寺山修司による翻案での映像化(むちゃくちゃ作者が怒ったといういわくつきでしたっけ)があったときに購入したのだと思いますが、最初の方だけ読んだ痕跡がありました(苦笑)。せっかくドラマも始まったし、と思い、あらためて読み始めたら、これが結構面白いじゃないですか!ちびちびと通読したいと思っています。

『花腐し』

wowowで初夏のころに放映された映画『花腐し』(荒井晴彦監督、2023)。録画してあって忘れていたものを、ようやく観ました。松浦寿輝の原作を、斜陽のピンク映画業界に置き換えたという触れ込みでしたが、個人的には違和感などもなく、とてもシックで豊穣な作品だったように思います(以下ちょっとネタバレっぽいかも)
https://www.imdb.com/title/tt28756694/

はなくたし、という題名は、劇中で説明されますが、「春されば卯の花腐し我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも」という万葉集の歌から。卯の花を腐らせるような長雨ということで、imdbの英語タイトルもA spoiling rainとなっていますね。

長年同棲していた女性が、別の監督と心中してしまい、状況を理解しきれないまま残された主人公の映画監督が、ある古アパートから立ち退かない男と「痛飲」することになり、その不思議な一夜を通じて、彼女のことを悼んでいくという物語。相手の男はマジック・マッシュルームを栽培しているという設定で、いつの間にか、どこからが幻想・幻覚なのかがわからない摩訶不思議な世界に入っていくような感じに。あれあれ、これって幻想譚だったの?みたいな。

でもこの作品を特徴付けるのは、なんといってもヒロインの女性がカラオケの場面で歌う山口百恵の名曲「さよならの向う側」かも。本編中では歌の1番まで歌ったところで画面がカットになるのですが、エンドクレジットでもう一度、今度は2番まで含めた歌唱シーンが。そこで少しだけ粋な演出があって、ちょっと泣ける感じがします。いいですね、これ。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』でのAngel of the morning(「夜明けの天使」)とか、『コーダあいのうた』でのBoth sides now(「青春の光と影」)とか、はたまた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』での「Voyager 日付のない墓標」とか、このところ、昔の楽曲が新たに作品に紐付けされる例がいろいろありますが、この『花腐し』の「さよならの向う側」も、そうしたリストに加わった感じです。しばらくは、「さよならの向う側」を聴くとこの映画を思い起こさずにはいないでしょう。