このところ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』(トム・スタンデージ、服部桂訳、ハヤカワ文庫NF、2024)を読んでいました。19世紀の電信技術のあけぼのから、後続技術によって廃れるまでの通史を、エピソード豊かに詳述した好著です。
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興味深いのは、電信の発展とともに、報道や外交、物流といった既存の体制が、揺さぶられつつも適応し、新しいハイブリッドな体制をしつらえていく様子でしょうか。「インターネットが社会に与えた影響が似ている」と、著者は指摘しています。ちなみに原著は1998年刊行なのです。著者がジャーナリストで、エピソードベースで読みやすいですが、実証的なデータとかがもっと入っていたらさらに有益だったかもしれません。
その意味でちょっと良かったのが、これまた最近読んだ『立ち読みの歴史』(小林昌樹、ハヤカワ新書、2025)です。奇しくも、こちらも早川書房刊ですね。
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立ち読みが主題ですが、江戸期からの書店・雑誌店の通史になっています。立ち読みを阻止するために本屋の親父が出してくるハタキの由来などにも触れていて、興味深いエピソード満載です。時代背景やら書籍の流通の仕方など、随所に様々なデータも紹介されて、とても立体的な通史が描かれています。ところどころ、具体的な証拠やデータが入っていて、著者の実証へのこだわりのようなものが実感できます。
ゴリゴリの研究書ではない一般向けのこうした教養本は、どうしてもエピソード重視にならざるをえないのだと思いますが、やはり実証的なデータも適宜添えてほしいものだと思います。要はバランスなわけですが、これも案外難しいところなのかもしれません。