ミトラス教という謎

井上文則『異教のローマ ミトラス教とその時代』(講談社選書メチエ、2025)を読んでみました。主にフランツ・キュモンの研究などで知られる「ミトラ教」(以前はそう表記することが多かったと思います)ですが、キュモンの説も今やすっかり古くなったのですねえ。多くの新たな知見が加えられ、塗り替えられていることを、同書で改めて知ることができます。
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とくに興味深かったのは、ローマに広がったミトラ教は、東方起源とか少アジア起源というわけではなく、1世紀ごろにローマで、1人の解放奴隷が単独で創始した星辰宗教ではないかという著者の仮説です。そう考えることで、普及状況その他に合理的な説明がつくというわけなのですね。思わず唸ってしまいました(笑)。

それとは別に、ミトラ教に言及する文献の数々がこれでもかというように、多々紹介されているのも読み応え十分です。ヘロドトスやストラボンなどの歴史家から、プロクロス、ポルフュリオス、プロクロスなどプラトン主義者たちまで、実に多彩な顔ぶれが並んでいて、個人的には、以前に少し思想史的に触れていたこともあって、どこか懐かしさのようなものすら感じられました。そんなわけで、これもなかなかの良書だと思いました。