マレンボン本

先に復刊されたJ.マレンボン『初期中世の哲学』(中村治訳、勁草書房)にざっと目を通す。原書は1988年刊。全体的には概説書なのだけれど、序文を見るに、中世初期が後の時代の前哨的な一時期と見なされ、ごく少数の思想家以外は闇に葬られていることに対して、実はその時期が哲学史の実り豊かな一時期でもあったということを示そうとして書かれたもの、とされている。確かにあまり聞かない思想家の名もちらほらと出てくる。とはいえ、基本的にはメジャー(中世思想史的に)になっている少数の思想家(ボエティウスとかエリウゲナとかアンセルムスとか)を中心に章立てがなされていて、どこかちぐはぐな印象を抱かせもする。概説書という意味で全体的な流れを概観させようとすると、「豊か」だとされる時代のあまり著名でない思想家の扱いは結構簡素化されてしまい、同書が意図している一般通念的見識への戦いという側面は殺がれてしまう……ということか?うーむ、これは難しい考えどころ。本を書くのは実はとても難しい、ということを感じさせる書というのがたまにあるけれど、これはそういう一冊かもしれない。冒頭の第二版への序で、著者自身が、「主題をひどく不正確に述べた節」があったことを明らかにしているあたりも、こういうアポリアというか逡巡というかを物語っている気がする……。