ジョルダーノ・ブルーノ

この数日、また雑用で田舎へ。で、今回のお供の一冊が岡本源太『ジョルダーノ・ブルーノの哲学−−生の多様性へ』(月曜社、2012)。これも期待通りというか、滅法面白い。ブルーノといえばコペルニクスの地動説の擁護で有名だけれど、ほかにもいろいろ革新的な思想を綴っていることがわかる。同書はそうした多面的な思想の中身に光を当てた好著。紹介される議論は多岐にわたっていて、人間と動物、感情論、知性論、道徳論、芸術論……。そのいずれもが、オリエント的というか、生成流転のテーマの変奏で貫かれている、というのが同書のメインストリーム。個人的にとりわけ注目したのは、道徳論を扱った第四章。ブルーノは善悪のような相反するものの一致を説いているといい、その一致概念それ自体はクザーヌスに多くを負っているらしいのだけれど、あえてそれを道徳にまで拡張しているところがブルーノの斬新な点なのだという。さらにまた、その相反の一致と、生成変化・流転とがイコールであるとされ(!)、相反するもの同士の間に社会的な「靱帯」、つまり相反するもの同士が互いを前提として存立するという関係が形成されるという議論が展開するのだという。うーむ、ブルーノが体現する、なんともしなやかな、時代をはるか先取りした知性……。これはもとのテキストもぜひ読んでみたいところだけれど(邦訳が結構あるみたいだ)、それにしてもこういう、ある種の一貫した思想的人物像を取り出す仕事というのはやはり重要だし、読んでいて好感がもてる。というわけで、同書には個人的に拍手を贈りたい。