変人奇人譚

就寝前本としてちびちび読んでいたクリストファー・ミラー『ピアニストは二度死ぬ』(石原未奈子訳、ブルース・インターアクションズ)を読了。サイモン・シルバーという架空の音楽家の作品集CDのライナーという体裁を取って、作品解説といいつつ、その音楽家の変人・奇人ぶりを、これでもかというふうに執拗に語っていくという小説。ライナーの体裁というのは結構早い段階で破綻するのだけれど(こんなライナーがあったらボツになること間違いない(笑))、そこから先は、そのシルバーなる人物がいかに常軌を逸しているかを追うことになり、結果的にそのライナーを記している「伝記作家」の複雑な思い(狂気?)が執拗に描かれるという、なかなかに手の込んだ作品だ。よく、暴露ものというか、実在の人物の細かいエピソードなどは、なにやらのぞき見興味みたいな下世話なモチベーションで読まれる、みたいに言われると思うけれど、こういうまったくのフィクションでついそういう奇態さに引き込まれる経験をすると、どうも変人・奇人の生涯についての誘因というのが、どこか別のところにあるようにも思えてくる。うーん、何なんですかね、この感覚。予測可能性を裏切られること自体の快楽か、はたまたそれに翻弄されてあたふたする側の滑稽さが面白いのか……。読後感として大きいのは、結局その「伝記作家」の狂気もまた絶大だということ。うーん、執拗さと狂気で貫かれた作品世界……。