グロステストをモデリング?!

わーお。一見とんでもなくキワモノに見えるものの(苦笑)、これはこれでとても興味深い研究だ。リチャード・バウワーほかによる「中世の多元宇宙:一三世紀のロバート・グロステスト宇宙論の数学的モデリング」(Richard G. Brower et al., A Medieval Multiverse: Mathematical Modelling of the 13th Century Universe of Robert Grosseteste, Nature, Vol.507, 2014)。今メルマガのほうで読み始めているグロステストの『光について』(De luce)が描く、第一形相としての光の拡散による物質世界を延長と、それによる諸天の形成というヴィジョンを、数学的なモデリングでもって描き出してみようというもの。先に西川アサキ氏によるライプニッツのモナドロジーのモデリングがあったけれど、これもある意味で同じような学際的研究。グロステストは『光について』で、光(lux)が質料に次元的な延長をもたらすものの、質料の半径(つまりは光の放射域だ)が増長につれて密度が漸減するとし、それが最小密度になったところがその限界域になると考える。その限界域では質料と光が合わさった完全状態が生じ、こうしてできたものが第一の天球だとされる。するとそこから別の種の光(lumen)が球の中心に向けて発せられ、不完全な質料(それは純粋ではなく、不透明だ)をさらっては圧縮していく。こうして内側の質料も漸進的に完全なものとなり限界点に達すると、そこで第二の天球が生じる。アリストテレスのコスモロジーでは第一天とされる恒星天だ。次にその第二の天球から同じようにlumenが発せられ……この繰り返しで最終的には月の天球(第九の天球)までが作られる。最後の月下世界では、もはやlumenの発出は十分ではなく、完全な物体が宿す円周運動ができない……。

こうしたlumenの動きとその減速要因などを、数学的なモデルで表し、コンピュータシミュレーションにかけてみるというのがこの論文の主要な報告内容だ。門外漢なのでモデルの細かい点についてはコメントできないけれど、かなり面白い結果が出ていることはわかる。そのままではlumenが形作る天球があまりに多くなりすぎるのだという。それを制限するためには、lumenの強度と不透明性が相当高くなければならないのだといい、結果的に、限定数の天球をもつ安定的な宇宙というのはかなり特殊なパラメータの結合状態で、きわめて例外的であることが示されている。なるほどねえ。同論考は、アンセルムスなどは神学的議論の中で、複数の世界(多元宇宙)の可能性について議論しているとした上で、ではグロステストはどの程度、他の世界の可能性について考察していただろうかと問うているが(13世紀を通じて、そうした可能世界についての議論が存在すると指摘している)、そのあたりはまさしく気になるところだ(笑)。

ペトルス・アピアヌス(ペーター・アピアン)『宇宙形状誌』の挿絵(1539)
ペトルス・アピアヌス(ペーター・アピアン)『宇宙形状誌』の挿絵(1539)