痴愚神礼讃……

痴愚神礼讃 - ラテン語原典訳 (中公文庫)沓掛良彦氏の新訳でエラスムス『痴愚神礼讃 – ラテン語原典訳』(中公文庫、2014)を読む。はるか昔の学生時代に『愚神礼讃』というタイトルでの訳本(どこの出版社だったかも、訳者名も忘れてしまっている……)をちょっとだけ読んだことがあるように思うけれど、当時はまったくその面白さがわからず、たぶん途中で投げ出したのだと思う(苦笑)。これはつまり、ある程度古典に親しんでいないと、何がどう風刺されているのかすらわからない、ということだったのかもしれないが、それ以前に翻訳そのものが読みにくかったのかもしれない。今回も個人的にはまだまだリファレンスがよくわからなかったりもするが、歯切れとテンポのよい見事な訳文が、そういうことをあまり問題にしないほど、読む側を引っ張っていってくれる感じだ。あとはそれにノッて最後まで一気に読むことができる。しかも今回のはラテン語原典訳。近年にいたるまで原典訳がなかったというのもちょっと驚きだけれど、訳者の巻末の解説によれば、「エラスムスはあまりに等閑視されている」のだという。「ルネサンスのラテン語文学は、わが国におけるヨーロッパ文学研究の谷間である」とも記されている。この巻末の解説、エラスムスの生涯については比較的細かく記されていて興味深いが、宗教改革がらみの文脈における位置づけなどはとても限定的に描かれている。全体として、どこかで耳にしたことのあるようなエラスムス像、というあたりをあまり出ていない感じもするのだが……まあこれは解説ということで紙面が限られているせいかもしれないけれど……。それに関連して、ちょうど同じ沓掛氏によるエラスムス――人文主義の王者』(岩波現代全書、2014)が出たようなので、後でそちらもチェックしてみたい。

個人的に興味を煽られたのは、とくに前半を中心にエラスムスが(作品的に言えば作中の女神が)各所でさかんにストア派を責め立てているところ。何度かストア派が引き合いに出され、なじられている(笑)。一六世紀にストア派の思想がどれほど社会的に広がっていたのか、それがどういう形で受け止められていたのかなど、寡聞にして知らないのだけれど、そのあたりはちょっと詳しく調べてみたいところではある。