February 09, 2004

No.26

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silva speculationis       思索の森
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<ヨーロッパ中世探訪のための小窓>
no.26 2004/02/07

------新刊情報-------------------------
このところ国内の新刊には中世プロパーのものがさほど見あたりません。という
か、なんだか書籍全般の出版点数が低迷してきている感じもします(?)。改め
て不況を思ってしまいますね。春に向けて充実していってほしいところです。
今回はまず、魔女ものの2冊から。

○『魔女の法廷 ルネサンス・デモノロジーへの誘い』
平野隆文著、岩波書店、?5,500
ISBN 4-00-002157-5

ルネサンス時代を中心に、魔女学の書物をもとに、その内実に迫ろうとする一冊
のようです。魔女学の書物そのものの検討というのは、そう聞くと意外にあまり
光が当てられていない感じです(おそらくエゾテリックな内容のせいでしょう
か)。ですが民衆史的にも、そういうアプローチには興味深いものがあります
ね。

○『魔女の文明史』
安田喜憲編、八坂書房、?6,800
ISBN 4-89694-835-1

こちらは論文集。魔女をより巨視的に捉えようとする一冊のようです。どうやら
現代にも通じる「マージナルな人々の迫害」といったテーマも見据えていそうで
す。

○『ブローデル歴史集成 1 地中海をめぐって』
ブローデル著、浜名優美監訳、藤原書店、?9,500
ISBN 4-89434-372-X

歴史家フェルナン・ブローデルの様々なテクストを集めた一大集成、原書
("Les Ecrits de Fernand Braudel", Editions de Fallois -- 各巻500ページを越
える大著です)どおり邦訳も3巻本になるようですね。1巻目は北アフリカ、ス
ペイン帝国、16世紀のイタリアなどについての論考が収録されています。

○『地域からみたヨーロッパ中世 中世ベルギーの都市・商業・心性』
(MINERVA西洋史ライブラリー 61)
アンドレ・ジョリス著、瀬原 義生監訳、ミネルヴァ書房、?4,000
ISBN 4-623-03714-2

ベルギーの限定地域における都市社会形成史。心性史などのアプローチも盛り込
んでいるようで、面白そうです。ベルギーというところがまたいいですね。著者
はリエージュ大学の名誉教授ということで、扱う地域もちょうどその一帯(ムー
ズ川沿い)です。地域史は深まると、とても面白い鉱脈に出くわすことがあるよ
うで、興味は尽きません。

○『イコンの道 ビザンティンからロシアへ
川又一英著、東京書籍、?2,600
ISBN 4-487-79897-3

内容説明がそそりますね。「東方正教の歴史・文化・現在を12のキーワードで
読み解き、ビザンティン文化圏の深層を探る。祈りの原点でもあり、ロシアを映
し出す鏡でもあるイコン(聖像画)一千年の盛衰とは−」。イコンの写真を眺め
るのは楽しいので、それだけでも「買い」でしょうか。


------文献講読シリーズ-----------------------
「マグナ・カルタ」その3

今回は第5条から第10条までです。土地の相続の続き、寡婦の相続、債務など
が取り上げられています。

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5. Custos autem, quamdiu custodiam terre habuerit, sustentet domos,
parcos, vivaria, stagna, molendina, et cetera ad terram illam pertinencia,
de exitibus terre ejusdem; et reddat heredi, cum ad plenam etatem
pervenerit, terram suam totam instauratam de carucis et waynagiis,
secundum quod tempus waynagii exiget et exitus terre racionabiliter
poterunt sustinere.
6. Heredes maritentur absque disparagacione, ita tamen quod, antequam
contrahatur matrimonium, ostendatur propinquis de consanguinitate ipsius
heredis.

第5条:管理者は、土地の管理権限を持つ限り、家屋、庭、狩猟園、池、製粉
所、その他土地に関わるものを、その土地から得られた収益とは別に保管する。
相続人が成年に達した際には、耕作に必要とされ、土地から得られた収益で適切
に賄った鋤などの農耕機具も含め、土地のいっさいを、すべて返すものとする。
第6条:相続人は、誹りを被ることなく結婚できる。ただし結婚の契約を結ぶ前
には、同族の近しい者に、その旨を通知するものとする。

7. Vidua post mortem mariti sui statim et sine difficultate habeat
maritagium et hereditatem suam, nec aliquid det pro dote sua, vel pro
maritagio suo, vel hereditate sua, quam hereditatem maritus suus et ipsa
tenuerint dit obitus ipsius mariti, et maneat in domo mariti sui per
quadraginta dies post mortem ipsius, infra quos assignetur ei dos sua.
8. Nulla vidua distringatur ad se maritandum, dum voluerit vivere sine
marito, ita tamen quod securitatem faciat quod se non maritabit sine
assensu nostro, si de nobis tenuerit, vel sine assensu domini sui de quo
tenuerit, si de alio tenuerit.

第7条:寡婦は夫の亡き後、ただちに、かつ支障なく、持参不動産権ならびに相
続分を取得できる。寡婦は、夫の死亡時に夫および自分が所有していた財産以外
を、持参金、持参不動産権、相続分としてはならない。また寡婦は、夫の死後、
その家に40日間とどまり、その間に持参金を返すものとする。
第8条:いかなる寡婦も、夫をもたず生活する意思がある限り、結婚を強要され
てはならない。ただしそれは、われわれが庇護する場合にはわれわれの同意、そ
の者を庇護する領主がいる場合にはその同意がなければ結婚しないことを、かか
る寡婦が保証することを条件とする。


9. Nec nos nec ballivi nostri seisiemus terram aliquam nec redditum pro
debito aliquo, quamdiu catalla debitoris sufficiunt ad debitum reddendum;
nec plegii ipsius debitoris distringantur quamdiu ipse capitalis debitor
sufficit ad solucionem debiti; et si capitalis debitor defecerit in solucione
debiti, non habens unde solvat, plegii respondeant de debito; et, si
voluerint, habeant terras et redditus debitoris, donec sit eis satisfactum de
debito quod ante pro eo solverint, nisi capitalis debitor monstraverit se esse
quietum inde versus eosdem plegios.
10. Si quis mutuo ceperit aliquid a Judeis, plus vel minus, et moriatur
antequam debitum illud solvatur, debitum non usuret quamdiu heres fuerit
infra etatem, de quocumque teneat; et si debitum illud inciderit in manus
nostras, nos non capiemus nisi catallum contentum in carta.

第9条:われわれも、われわれの執行吏も、債務者の動産が債務の返済に十分で
ある限り、なんらかの土地を差し押さえたり、賃貸に用いてはならない。また、
主たる債務者が債務を十分に支払える限り、債務者の保証人を立てることを強要
してはならない。主たる債務者が返済手段をもたず、債務の支払いが滞った場合
には、保証人がその債務の返済にあたる。その場合、保証人が望むのであれば、
債務を完遂し債権者に対する支払いが行われるまで、保証人は土地と賃貸料とを
手にできる。ただし主たる債務者が、保証人に対し、債務が解除されていること
を示す場合には、その限りではない。
第10条:任意の者がユダヤ人から、額の多少にかかわらず、借り入れを行い、
その返済前に死亡した場合、相続人が成年に達していない間は、後見人が誰であ
ろうと、債務の金利は発生しないものとする。かかる債務がわれわれの手にある
場合にも、証書に記載の額面以外は徴収しない。

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こういう文書を読む場合には、語句を拾うのもなかなか大変ですね。例えば第5
条に出てくるwaynagiusというのは、英語のwainageに相当し、封建時代の農耕
用具一般を指します。第6条のdisparagacioも英語のdisparageに相当し、誹り
の意味です。第7条に出てくるmaritagiumはmaritageですが、これには封建法
上「婚姻権」と「持参不動産権」の意味があります。前者は、領主が領臣の結婚
を斡旋する権利で、結婚が決まった領臣が領主に収める上納金も指します。ここ
は後者でしょうね。

前回出てきた封建時代の封の相続に際して支払われるrelevium(相続上納金、
相続承認料)ですが、イングランドはことのほか高額だったといわれています。
その意味では、この文書は一律の制限を課したという意味合いがあるのでしょう
ね。また、封建領主は封臣の子ども、特に娘に対して、婚姻強制権(婚姻権)を
行使していたわけですが、それからすると、「相続人が誹りを被らずに結婚でき
る」というのは、相続人の自由、独立性を一部認めた形になっており、その意味
ではなかなか画期的にも見えます。寡婦に対しても、婚姻強制権は行使できない
という制限が課されています。そうしてみると、第9条あたりの土地の扱いなど
も(特に保証人の立て方など)、実のところ様々な逸脱行為がなされていたのに
対する、制限の意味合いが強く出ているように思えます。

次回は11条から15条くらいを見ていきたいと思います。どうぞお楽しみに。

*本マガジンは隔週の発行です。次回は2月21日の予定です。
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(C) Medio/Socio (M.Shimazaki)

投稿者 Masaki : February 9, 2004 07:04 AM