2008年01月03日

No.117

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silva speculationis       思索の森
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<ヨーロッパ中世探訪のための小窓>
no.117 2007/12/29

年末でもありますので、今号は短縮バージョンといたします。

------古典語探訪:ギリシア語編----------------
ギリシア語文法要所めぐり(その4:時空間の表現)

今年最後となる今回は、場所と時間にまつわる慣用的表現をいくつかまと
めておきましょう。

まず、場所を表す前置詞ですが、pros(〜へ)、eis(〜の中へ)、epi
(〜に対して)は対格を取るのでした。ちょっと例外的なのが、「人物」
に対してho^sを用いたりすることです。ho^s ton basileaで「王へ」の
意味になります。一方、apo(〜から)、ek(〜から外へ)は属格を取
りますが、これも人物などの場合に、paraを用いたりします。para tou
basileo^sで「王から」。もう一つ大事なポイントが、語尾につけるthen
とde(またはse)。それぞれ「〜から」と「〜へ」を表し、oikothenな
ら「家から」、oikadeなら「家に」。allothenなら「他所から」、
alloseなら「他所へ」。

時間の表し方については、「期間」を表すには対格を、「時間内」を表す
には属格を、「時点」を表すには与格を用いるのでした。「彼は3ヶ月間
病気だった」「彼はその晩のうちに病気になった」「彼は4日目に回復し
た」を比較してみましょう。

1. treis me^nas enosei.
2. taute^s te^s nuktos enose^se.
3. te^i tetarte^i he^merai ano^rtho^se.

また、距離を表すには対格を用います。高さは属格、広さは対格で表され
ます。「彼らは10スタディオン歩いた」「20フィートの壁」は次のよう
になります。

4. deka stadia eporeuthe^san.
5. teichos eikosi podo^n to hupsos.

アクセント記号付きの例文はこちらをご覧ください(http://
www.medieviste.org/blog/archives/GC_No.4.html
)。スタディオン
というのは古代ギリシア・ローマで用いられた単位で、1スタディオンで
約185mとされます(オリュンピアの競技場の長さ)。さて年内はこれで
終了です。来年も引き続き、文法・語法の要所をめぐっていきたいと思い
ます。お楽しみに。


------文献講読シリーズ-----------------------
アルベルトゥス・マグヌスの天空論・発出論を読む(その15)

今回の箇所もまた、三様の理解によって「下位のもの」が織りなされ、序
列・秩序ができあがっていくという話が続いています。さっそく見ていき
ましょう。

# # #
Et hoc modo non est difficile determinare intelligentias et motores
et caelos usque ad caelum lunae ita quod prima intelligentia et
primus motor et primum caelum determinatur ad mobile primum,
quod est caelum primum, quod movetur super circulos
aequidistantes ad circulum, qui vocatur aequinoctialis, super polos
aequinoctialis, qui vocatur poli mundi. Secundum autem mobile
sic: circulus signorum, quod movetur super polos orbis signorum.
Tertium vero mobile sic: stellarum sphaera fixarum. Quartum vero
sphaera Saturni. Quintum sphaera Iovis, et sextum sphaera Martis.
Septimum sphaera solis. Octavum sphaera Veneris. Nonum
sphaera Mercuii, et decimum sphaera Lunae. Ita quod semper
inferior per exuberantiam determinatur superioris per triplicem
intellectum, quo intelligit se, secundum quod a superiori est et a
primo; et quo intelligit se secundum ‘id quod est’; et quo intelligiit
se, secundum quod in potentia est. Intelligere enim se activo
intellectu semper constituere est alicuius quod est sub ipso, cuius
intellectus per lumen suum constitutivus est.

このような形で、月の天球までの諸知性、諸動因、諸天を定めるのは難し
くはない。なんとなれば、第一の知性、第一の動因、第一の天は、第一の
可動体、すなわち第一天に対して定められるからだ。それは昼夜平分円と
呼ばれる円に対して等距離にある円周上を、昼夜平分軸、すなわち世界軸
に沿って動く。しかるに第二の可動体は黄道獣帯の円をなす。黄道獣帯の
軸上を動く。第三の可動体は恒星天となる。第四は土星天である。第五は
木星天、第六は火星天。第七は太陽天。第八は金星天、第九は水星天、そ
して第十が月天となる。このように、下位のものはつねに三重の理解を通
じ、上位のものからの横溢によって決定づけられる。三重の理解とは、上
位のもの、および第一のものから由来するとしておのれを知ること、「本
質」に即しておのれを知ること、そして潜在態としておのれを知ることで
ある。知的現勢態としておのれを知るとは、つねになんらかの、自分より
も下位のもの成立させることであり、下位のものの知性は、その自分の光
によって成立するのである。

Si autem in suprioribus motus plures sunt quam illi quos diximus,
tunc necesse est ordines plures esse et intelligentiarum et
motorum et mobilium. Dicunt enim Ptolemaeus et Rabbi Moyses,
quod multi et quasi innumerabiles motus sunt in superioribus, qui
usque hodie a consideratoribus astrorum non sunt deprehensi.

しかるに、仮に上位(の天)における運動がわれわれが述べた運動よりも
多く存在するのであれば、知性、動因、可動体のいずれの秩序もより多く
あることになる。たとえばプトレマイオスやラビ・マイモニデスは、上位
(の天)には多数の、ほぼ数え切れないほどの運動があり、それは今日で
さえ、天文学者が掌握できていないほどだ、と述べている。
# # #

アルベルトゥスは上で10層の天を考えています。12世紀初めに活躍した
コンシュのギヨーム(『ドラグマティコン』)などでも、天空の構成はほ
ぼ同様です。13世紀半ば過ぎにいたっても、図式そのものは変わらない
ようで、10層の天球は一種のスタンダードとして定着していたことがわ
かります。

興味深いのは二節目のプトレマイオスやマイモニデスの見解ですね。羅独
対訳本の脚注では、プトレマイオスについてはアルベルトゥスの『天空と
世界について』を参照するよう指示されていますが、これは現時点では確
認できていません(悪しからず)。一方、マイモニデスについては、その
代表作『迷える者への道案内』に対応箇所が確認できます。第2部の最初
のほうですが(サロモン・ムンクによる仏語本ではp.254)、要は分離知
性の存在を説いた部分で、「多数の天球が存在するなら、分離知性もそれ
と同数存在するだろう」という話が、アリストテレスの説として紹介され
ています。アリストテレスもほかの誰も、知性の数が10なのか100なの
かは確定していない、けれどもいずれにしても天球の数と同数である、と
いう感じで述べられています。

分離知性というのは要するに質料から離れた知性ということで、質料の中
にある人間知性とは抜本的に異なるものとされています。天球を動かす・
司るのがその分離知性とされ、アルベルトゥスの文章で言う「知性」がそ
れに相当するわけですね。マイモニデス自身は、天球の数が確定していな
い話をした後で、10層(9つの天体と地上世界)であるとする説を紹介し
て、明言こそしないまでも肯定的な見解を示しているように思われます。
上のアルベルトゥスのほうは、わずかながら異説の可能性にも目配せをし
た、というところでしょうか。

この本文もあともう少しです。年明け後も引き続き読んでいきたいと思い
ます。今年も拙訳・拙文におつきあいいだだき、誠にありがとうございま
した。来年もどうぞよろしくお願いいたします。それでは皆さま、よいお
年をお迎えください。


*本マガジンは隔週の発行です。次号は01月12日の予定です。

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投稿者 Masaki : 2008年01月03日 21:50