2006年05月15日

No. 80

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
silva speculationis       思索の森
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<ヨーロッパ中世探訪のための小窓>
no.80 2006/05/13
*本号は、都合により「文献講読シリーズ」をお休みし、再び短縮版とさせて
いただきました。ご了承ください。


------新刊情報--------------------------------
ゴールデンウィーク明けなのに、なんだかもう梅雨のような天気が続いていま
す。個人的にもちょっと体調を崩してしまいました。書籍のカビなども心配に
なってきますね。

『ヨーロッパ中世の修道院文化』
杉崎泰一郎著、日本放送出版協会
ISBN:4149105944、893yen

NHKラジオの講座「カルチャー・アワー・歴史再発見」のテキストです。NHKの
テキストを割とよく揃えている近所の小規模な書店ではもう見つからないみたい
です。うーん、最近の書店の流通事情というのはどうなっているのか、ちょっと
心配な気も(笑)。

『西洋哲学史−−古代から中世へ』
熊野純彦著、岩波新書
ISBN:4004310075、861yen

これ、さる方面では結構話題になっているようですね。2巻本で西洋哲学史を
ざっと概観する力業という感じでしょうか。でも決して安易な読み物ではないの
とことで、そのうちぜひ読んでみたいところです。著者の熊野氏はレヴィナスの
『全体性と無限』(上・下、岩波文庫版)の訳者でもありますね。

『古代から中世へ』
ピーター・ブラウン著、後藤篤子訳、山川出版社
ISBN:4634475022、1575yen

似たようなタイトルが似たような時期に出る、というのは結構ありますが、こち
らは『古代末期の世界』や『アウグスティヌス伝』で知られる歴史学者(プリン
ストン大学)の講義。キリスト教の古代から中世への転換など、興味深いテーマ
です。

『オッカム哲学の基底』
渋谷克美著、知泉書館
ISBN:490165473X、4725yen

ついに出ました。オッカムの『大論理学』完訳をなしとげた著者による、オッカ
ムの哲学論。オッカムの思想の根底はどこにあるのか、というのが基調のよう
で、個人的には存在(esse)と本質(essentia)をめぐる議論の解釈などとて
も楽しみです。もちろん存在論の論理学への変換という部分も見逃せません。

『シトー会建築のプロポーション』
西田雅嗣著、中央公論美術出版
ISBN:4805504889、34650yen

大型本とのことで、お値段も少々……(桁をお間違えのないように)。とはい
え、シトー会の修道院建築、さらには中世建築全般のプロポーションに関する研
究というとても珍しい内容のようで、せめて図書館ででも見てみたいところで
す。遺構の実測などを踏まえた実証的・考古学的研究とのこと。


------中世の古典語探訪「ラテン語編」------
(Based on "Apprendre le latin medieval", Picard, 1996-99)

第30回:接続法、その3

早いもので、ラテン語文法のおさらいも30回目となりました。前回は接続法の
非現実話法のエッセンスをさらいましたので、今回は可能話法をざっと振り返り
ましょう。可能話法には、付帯状況を表す従属節の場合と間接話法の場合とがあ
りますが、とりあえずここでは前者だけを取り上げます(間接話法については、
改めてまとめることにします)。

まず、代表的なものとしてcum + 接続法で原因を表す用法があります。
- Cumque illuc pervenisset, a venerando pape bene susceptus est. (彼がそ
こに到着したので、教皇は手篤く彼を迎えた)

quiaやquoniamなどを使う場合には直説法でよいのですが、cumに原因の含み
を持たせる場合には接続法になるのですね。またcum + 直説法だとすっかり時
間だけの意味になります。接続法は時間を表す接続詞の後に使われることもあ
り、そうすると話者の主観や意思の含みが付け加わります。
- Antequam ergo ultra promoveam, de quibusdam viris venerabilibus
dignum arbitror loqui. (先に進む前に、敬うべき何人かの人々について話すの
が相応しいと思う)。

「たとえ……でも」など、譲歩・対立を表すquamquamやetsiは直説法を取りま
すが、quamvis、licetなどは接続法を取ります。そして何より大事なのが、目的
や結果を表す「ut + 接続法」です。
- Sed ut cito moras cunctationis disrumpam, beatissimi viri quaedam
miracula sum narraturus. (けれども、ぐずぐずしていて生じた遅れを早く解
消するために、私はある聖人の奇跡を語ろう)

utの用法には、英語でいうso〜that構文のような用例もあります。sic、ita、
tantusなどを用い、utの後は接続法とします。
- Tanta loci iniquitas fuerat, ut ipsi cuiquam labori ibi insistere vix possent.
(その地でのあしらいはあまりにひどく、彼らはなんらかの作業に専心すること
もほとんどできなかった)

このようにいろいろな用法があるわけですが、直説法と接続法の使い分けなどに
ついては、中世ラテン語では古典ラテン語よりも規則がゆるくなっていて、目的
や結果を表す従属節に直説法が使われるケースも少なからずあるようです。


*本マガジンは隔週の発行です。次回は5月27日の予定です。

投稿者 Masaki : 2006年05月15日 22:43