「ああ、みじめな死すべき種族、祝福されない者よ。
争いと嘆きとによって、そのような姿になったのだ」
ὢ πόποι, ὢ δειλὸν θνητῶν γένος, ὢ δυσάνολβον,
τοίων ἔκ τ' ἐρίδων ἔκ τε στοναχῶν ἐγένεσθε.
エンペドクレスが残したという教訓詩の一つ。なんだかこの殺伐とした現代を象徴するかのような一文だ……。とはいえこの詩の方は、最後には死すべき種族(人間)の宿命からの解放が語られる。現実の人間はといえば……イラクではファルージャの攻撃が始まった……。
「およそ芸術作品ならいつでも、思想はかならず作品から出てくるので、なにかある思想から作品が出てくるなどということは、決してないものだ」
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタをめぐって、アランほか5人がかなり自由奔放にくっちゃべるという『音楽家訪問』。ハ長調は何の不安もない状態、ト調は子どもの無邪気さ、ニ調は心の成熟を表し、ホ調は神の調……云々。こういう印象批評もいいところの恣意的解釈には思わず笑ってしまう。けれどもところどころ、味わい深い珠玉の言葉がちりばめられている。上は第5章からだが、例えば第6章の出だしも。「物の相違は美しい。存在は多様であるからこそ美しい」。