2008年03月20日

オリュンピオドロス

クリスティーナ・ヴィアーノの『事物のマティエール--アリストテレス「気象論」第4巻とオリュンピオドロスによるその解釈』(Cristina Viano, "La matière des choses - le livre IV des météorologiques d'Aristote et son interprétation par Olympiodore", Vrin, 2006)。とりあえずヴィアーノによる論考部分(前半)にざっと目を通したところ。後半はオリュンピオドロスの「気象論注解」から第4巻部分のギリシア語校注テキストと仏訳で、こちらはまだ半分行かないくらい。アフロディシアスのアレクサンドロスの『形而上学注解』をちょっと中断して少し前から読み進めているところ。ヴィアーノの論は、オリュンピオドロスの注解についてのいわば総論で、文献学的な突き合わせをしながら、『気象論』第4巻の様々な問題を取り上げている。これはいろいろな部分で参考になるなあ、と。例の「孔」と「粒子」の話についても、「孔」などの用語法はアリストテレスの中ではごくありふれた「物体が変化しうる点」みたいな意味合いで使っていて、原子論的なニュアンスはないといった指摘がなされている。第4巻は3巻までとは趣きが異なるので、とくにその位置づけをめぐってはアフロディシアスのアレクサンドロスが疑問を呈して以来議論が取り沙汰されてきたわけだけれど、オリュンピオドロスはむしろそれを連続したものと考える側に立っているのだとか。

投稿者 Masaki : 23:46

2008年03月14日

[メモ]粒子論関連論文集

リュティ、マードック、ニューマン編纂の『中世後期・近代初期の粒子的物質理論』("Late Medieval and Early Modern Corpuscular Matter Theories", Brill, 2001)なる論集のうち、中世関連のものにざっと目を通す。目次の順番はひとまず無視してまずはニューマンから読み始める。再びゲベルス(ジャービル・イブン・ハイヤーン)の話が中心で、『完徳大全』(ニューマンはこれをアラビア語からの翻訳ではなく、13世紀にラテン語著者によって書かれたものと考えている)での元素の記述が粒子論的だと指摘。これにはサレルノの伝統が影響している可能性があると述べている。ゲベルスの書の直接の影響関係のほか、サレルノの伝統からは原子論的な考え方も出ていて、ガレノスの元素論などが絡んでいるという。また、16世紀以降にはアリストテレス『気象論』4巻の記述との統合の動きも、という話。なるほどサレルノか。で、この同じ論集の冒頭を飾っているのが、ダニエル・ジャカールによるサレルノの12世紀の医学書群を扱った論考で、これがそのサレルノの伝統に光を当てている。医学書は基本的にコンスタンティヌス・アフリカヌスほかによるアラビア語文献の翻訳・翻案ものがベースにあり、それに様々な注解が施されているのだという。たとえばサレルノのバルトロメオスなどは、ピロポノスのアリストテレス注解をいくぶん曖昧にしたワーディングを用いているという。「孔」と「粒子」とが組み合わさるといった混成の話も、アラビア語文献やガレノスなどの影響関係があるらしい。なるほど。そういばこの論集とは別筋の話だけれど、粒子論がらみではピロポノスというよりオリュンピオドロスの影響関係もあるという話も耳にしている(それはまた後で取り上げよう)し、なかなかこの辺り、深いものがあるなあと。

このほか、論集に収録の中世ものとしてはロジャー・ベーコン論(モランド)、ライムンドゥス・ルルス論(ロアー)、それからマードックによる「ミニマ・モラリア」の変遷に関する論など。

投稿者 Masaki : 19:31