2008年03月05日

アベラール再び

フランスの人文系出版社Vrinから出ているSic et Non叢書。この中のアベラール(アベラルドゥス)の『知性論(tractatus de intellectibus)』の羅仏対訳本("Des intellections", trad. P. Morin, Vrin, 1994)をようやく入手。とりあえず本文と解説(注解)をざっと読んでみる。アベラールの普遍概念については、かつては概念論と括られ、その後修正されて唯名論の祖という扱いに変わってきているわけだけれど、唯名論的な括りのベースとされる「イングレディエンティブス論理学」は、とりあえずは実在論との調停的な色合いがやや濃いテキストだったように思う。で、その後に書かれたといわれるこちらの「知性論」では、抽象(捨象)による知解の理論はいっそう重みを増している感じか。「知解のしかたは実在のしかたとは異なる(Quod alius modus est intelligendi quam subsistendi)」(知解対象そのものと知解された対象とは別物である)というのが核心的テーゼで、「人間が走る」と理解する際の「人間」は、実在するどの人間にも還元できない、あくまで定義上のものなのだといった議論を展開している。明言されているわけではないが、その場合の共通項としての「人間」は、あくまで捨象によって知性の中で成立するものであって実在するものではない、といった話が導かれるのはある意味自然な流れ。うーん、なるほど。訳者のモランも解説の末尾で、「アベラールをオッカムのウィリアムの先駆だとまでは言わないが、サリー(オッカム村があった)の唯名論者を呑み込んだ裂け目を穿ったと考えることはできるだろう」としている……。

投稿者 Masaki : 23:25

2008年01月13日

ヨアキム的伝統の図像世界

大型本『フィオーレのヨアキムの図像世界』("Die Bildwelt der Diagramme Joachims von Fiore", Thorbecke, 2003)をずらずらと。フィオーレのヨアキムの写本にある図表を中心に12世紀とその後の図表的伝統に関する論集なのだけれど、巻末に60ページほどついているカラー図版を眺めているだけでも楽しい。ヨアキムの三位一体概念を表す図表の意味論的研究(編者のアレクサンダー・パチョフスキ)や、時代区分の変遷とその図表表示に関する論考(ジアン・ルカ・ポテスタ)なども硬質な読み応えだけれど、個人的には、ビンゲンのヒルデガルトを大きく扱い12世紀の図像表現を俯瞰したクリステル・マイヤーの論文とか、ヨアキム的伝統につながるとされる「ホロスコープの書」の、図像の「エンブレム化」についての考察(マティアス・カウプ)などのほうが興味深い感じ。

とくにこの「ホロスコープの書」は、リーヴスの「中世の預言とその影響』にもあるように、ヨアキムのいう第3の時代の到来への期待の中で、現世的なものに始終する歴代の教皇への批判を体現したものの一つ「フロレの書」の付論で、32章におよぶホロスコープ的預言とその注釈という体裁で、歴史的推移を論じているものなのだとか。で、最終的な太陽の支配に行く前の土星の支配というところに、最悪の教皇としてボニファティウス8世が挙げられているのだという。そして預言においてその諸特徴を表すエンブレム(言葉での)の数々が、上の論考のハイライトということになる。この部分のラテン語テキストも収録されているのだけれど、これもなかなか面白かったりする。うーん、「フロレの書」やあるいは「教皇預言集」なども見てみたいところ。

同書の表紙をかざるヨアキムの『形象の書』から、神を表象する3つの円の図を再録しておこう。
joachim_de_flore.jpg

投稿者 Masaki : 22:34