2004年05月31日

5月の木

なんだか5月とは思えないほどの暑さが続いている。うーん、なんだかなあ。それにしても欧州の5月といえばやはり新緑の季節。そんな感じでいい味を出しているのが『5月の木(L'arbre de Mai - chansons & danses au temps de Guillaum Dufay)』(Alpha 054)。副題が示すように、デュファイの時代の世俗曲・舞曲を集めた一枚。演奏はアレゴリーというアンサンブル。やっぱり中世の世俗ものだけあって、パーカッションがいい味を出している。リュートも5コースのDチューニング、4コースGチューニングの中世リュート。ノって暑さを吹き飛ばせるか(?)。

ジャケット絵は中世の『健康の手引き』(Tacuinum Sanitatis)の挿絵から。この手引き書は各国別に数多く存在しているけれど、これはBNF(フランス国立図書館)所蔵の15世紀ドイツのもの。野菜や果物、肉類などの、今でいえば食品・医療図鑑に相当する。この絵では子どもがサクランボを取っているところが描かれている。Tacuinum sanitatisの様々な絵を見たい方は、こちらのサイトをどうぞ。
enfants.jpg

投稿者 Masaki : 14:14

2004年05月24日

「力の祭儀」

先週末は久々にDVDを観る。『ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの肖像(Hildegard von Bingen in portrait)』(Opus Arte)。2枚組で、1枚目にヒルデガルトの宗教劇「Ordo virtutum(力の祭儀)」が全曲入っているのが嬉しい。欧州の音楽劇としては現存する最古のもの。この盤では、ハープやリコーダーを取り入れて雰囲気を高めている。ドイツ式発音のラテン語で歌っているのが、またちょっと面白い。画面は単調さを抑えようとしてか、オーバーラップ多用すぎか。歌自体はなかなかに見事。ドイツで出版されているヒルデガルトの『歌集(Lieder)』を観ながら聞くと、ネウマ譜の勉強にもなる(笑)。オクターヴを軽々と越えていくヒルデガルトの歌だが、このDVDに同時収録されている研究者らのインタビューで、マチュー・フォックスは、「その歌には独特な呼吸法が必要になり、その負荷が一種の高揚感を作る。まさに音楽は一種のメディテーションなのだ」と説いている。なるほど、これは興味深い指摘だ。

2枚目にはBBC製作のドラマ(ヒルデガルトの後半生のエピソードをかなり強引につなぎ合わせていて、ちょっとイマイチか)や、ワシントンのナショナルカテドラルによるドキュメンタリー(やはり研究者らのインタビュー)、そして上述のフォックス教授によるヒルデガルトの図像解説がある。なるほどこの図像の詳細な検討とか、実に面白そうだ。とりあえず、3枚を掲げておこう。左から、最初は「宇宙卵」で、宇宙が成長する卵に見立てたものとしてはかなり初期のものに属するという。2枚目は「宇宙輪」。中心部の地上の営みが外側のより大きな世界にリンクしている様を描いたものだという。3枚目はまさに「マンダラ」。7層の円から構成された図像は、外側二列に天使が、後は人間が描かれ、天使と人間とが連続した形で描かれているところに特徴があるという。

hilde-egg.jpg hilde-wheel.jpg hilde-mandala.jpg
投稿者 Masaki : 17:22

2004年05月19日

ファルケンハーゲン

いつもながらのリュートもの。今回は『王妃のためのリュート音楽(Lute music for a Princess)』(ASV、CD GAU 233)。17世紀のファルケンハーゲンと、その一世代後に来るハーゲンの曲を、コンチェルト、ソナタ(リュート・ソロ)、デュエットとそれぞれ1曲づつ合わせた一枚。デヴィッド・パーソンズ率いるハイドン・リュート・トリオというアンサンブルの演奏。デュエットではこれにクリストファー・ハーストという別のリュート奏者が加わっている。うん、特にファルケンハーゲンが選曲的にも秀逸で、なんだか模範演奏のような端正さ。ファルケンハーゲンはヴァイスの弟子だったそうだけれど、ソナタ・ハ短調など、どこかヴァイスの複合的な部分を純化したような曲。ライナーによると表題の「王妃の……」とは、大王フリードリヒ2世の姉にあたるヴェルヘルミーネのことで、1732年にバイロイト辺境伯に嫁ぎ、そこでファンケルハーゲン、デュラン、ハーゲンなどのリュート奏者の庇護に努めた。そういえばバイロイトにオペラハウスを建てたのも、ヴェルヘルミーネなのだそうだ。

さて、ジャケット絵は17世紀のウィレム・ファン・ミーリス(Willem van Mieris)による「リュート奏者」(部分)。オランダはライデンの美術アカデミー設立に一役買った人物。次に挙げる写真ではよく見えてないけれど、ここに描かれているバロックリュートのネックの形状がかなり独特。
Mieris1.jpg

投稿者 Masaki : 13:26

2004年05月13日

バイオリン・ソナタ

久々にFM。一昨日から二夜連続で放送していたインマゼールとミドリ・ザイラーによるモーツァルトのバイオリン・ソナタ集。結局前半(初日)しか聴けなかったけれど、インマゼールが弾くフォルテピアノ、微妙にくぐもった感じの響き(?)が印象的。ザイラーが弾くのはバロック・バイオリンだった模様。曲目はバイオリン・ソナタ第32番、33番、35番、36番。

モーツァルトがらみでは、ちょっと前に仏作家フィリップ・ソレルスの『ミステリアス・モーツァルト』("Mystérieux Mozart", Plon, 2001)を読んだ。モーツァルトの精神の歩みを作家が辿り直していくという形で、史実とミニマルなフィクションと作家の声とが交錯する好エセーだ。こういう作品を作家に書かせてしまうところに、モーツァルトの不可思議さがある……ということか。この本の裏表紙、モーツァルトの生家でフォルテピアノに向かうソレルス自身の写真が掲載されている。そういえばソレルスは雑誌『Classica』の56号(昨年10月)で、メゾソプラノのセシリア・バルトリと対談していた。ソレルスは基本的には聞き役になって、バルトリからいろいろな話を引き出そうとしているのだが、文学話や大局的な視点を様々に駆使するあたりは、うまくいっていないかも?とはいえ、話はグルックとモーツァルトとつなぐ存在としてのサリエリ(とそのオペラ作品)の重要性から始まり、ヴィヴァルディなどの詩へのアプローチが音楽ともども重要なのだという話をめぐり、次いでヘンデルのオラトリオにも見られる寓意が仄めかすバロック時代についての観照、そして演奏家の即興の話などへと軽やかに移っていく……。ソレルスはヴィヴァルディへの思い入れも相当強い模様で、「自分の葬式にはぜひ流してほしい」とまで書いたのだという。バルトリも「ヴィヴァルディには人間を感じるが、ヘンデルはもっと遠い感じがする」と述べている。うーん、なかなかに興味深いコメントかも。

投稿者 Masaki : 14:02

2004年05月06日

ペーパーオルガン

衛星放送のクラシック番組で放映していたホアキン・サウラとレオナルディアン・ミュージック・アカデミーの演奏。演奏も素晴らしいけれど、何が凄いかってサウラの使っている自作のペーパーオルガンが秀逸だ。これ、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿に残っていた絵と説明をもとに復元したものなのだそうだ。決して大きく響くわけではない柔らかい音。うーん、素晴らしい。演奏された曲目では、特に最後の方を飾ったJ. ダルツァのCatalas a la espanola(スペインの古い踊り)がよかった。ビウエラ主体、ということはリュートでもオッケーだな。タブラチュラを探してみよう。

レオナルドといば、今読みかけなのがR.D.マスターズ『ダ・ヴィンチとマキアヴェッリ - 幻のフィレンツェ海港化計画』(常田景子訳、朝日選書)。技師としてのレオナルド、書記官としてのニコロそれぞれの評伝としてもよくまとまっている。で、今日の関連の一枚はやはりレオナルドで決まり。『岩窟の聖母』だ。これはルーヴル美術館所蔵(1483ごろ)のものとロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵(1503ごろ)の二つがあるが、とりあえず後者を掲げておこう。
Virgin_of_the_Rocks.jpg

投稿者 Masaki : 22:57

2004年05月03日

EU拡大記念

1日のEU拡大を記念して(笑)、ちょっと東欧に関係するCDを。まずはアルス・アンティクア・オーストリアのお国めぐりCD第2集『文化の音 - ハンガリー』(Symphonia、SY 02198)。18世紀の楽譜に残るハンガリーの曲の数々を再現したものだという。なるほど当時はオスマン・トルコのウィーン攻囲が失敗した後で(1683年)、「トルコ風」な楽曲が各地に伝わっていった頃。収録曲ではフックス(Johann Joseph Fux)の「シンフォニア」などにそれが反映している。また素朴な感じのエステルハージ(Esterhazy)「幼子イエス」、シュメルツァーの舞曲「ラ・ベラ・ツィンガーラ」なども興味深い。

もう1枚は17世紀から18世紀初頭に活躍したチェコ出身の作曲家ゼレンカの『最終第6ミサ』(5081182)。これはお勧めかも。ゼレンカの最後のミサ曲というだけあって、曲そのものも様々な要素が織り込まれた贅沢な作品。特に特徴的だとされるのが一続きになった「クレド」。フリーダー・ベルニウス指揮のシュトゥットガルト室内合唱団の演奏は作品の構成美にヴィヴィッドに呼応している感じがして、なかなかに感動的だ。

投稿者 Masaki : 18:29