2004年10月27日

サリエリ……

今月の中旬くらいに、怪優ジェラール・ドパルデューがサリエリに扮しバルトリが語り部を務めるというドキュメンタリー風テレビドラマ(?)がフランスで放映されたらしい。サリエリというと、ミロス・フォアマンの映画『アマデウス』では老獪な音楽家として描かれていたわけだけれど(ラストの「私は凡庸なるものの神だ」というセリフはちょっとなあ。だってサリエリだって才能が認められて宮廷音楽家になっているわけで、凡庸なるものでは決してないんだからね)、この番組では逆に、モーツァルトの信奉者としての姿を浮かび上がらせるという趣向だったらしい。なるほどバルトリの思い入れはなかなかのもの。アルノンクールが雑誌インタビューで酷評していた『ザ・サリエリ・アルバム』(Decca、475 100-2)は、サリエリ作曲のオペラのアリアを集めた一枚だが、バルトリの技巧が光る一方で(伴奏はエイジ・オブ・エンライトメント・オーケストラ)曲自体の面白さは今ひとつ伝わってこないもどかしさがあるよなあ。でもこの、冊子一体型のCDケースのフォーマットは扱いやすくて便利。これからはこういうフォーマットでやってほしいなあ……なんて思うのは、ビオンディによるアレッサンドロ・スカルラッティ『至聖なる三位一体』(7243 5 45666 2 2)付属の冊子を最近紛失してしまったからか。こちらも全体にどこか物足りない感じがしなくもない。スカルラッティとサリエリ、この二人はナポリ楽派の創始者とその後継者ということで関係がないわけでもなかったり。

投稿者 Masaki : 13:43

2004年10月19日

フレットワーク

愛用の7コースリュート。この4年間変えていなかったフレットの交換作業を少しだけやる。ガット弦を結んではんだごてで焼き付けるのだけれど(慣れてくるとライターの火でやっちゃうらしいのだが)、最初少々とまどいつつも、なんとか一部は完了。残りもそのうち行おう。

だから、というわけでは全然ないのだけれど、フレットつながりで(笑)フレットワークという擦弦楽器ユニットによるダウランド『ラクリメ』(7243 5 45005 2 7)を聴く。1604年に出版されたダウランドの器楽合奏曲としての「ラクリメ」全曲。ラクリメとその変奏が続いた後、後半はガリアード類が延々と続くという構成は曲集そのままらしいけれど、うーん、なんだかこの反復される旋律が、ややもすると強迫観念的な沈痛さを呼びおこす気がしないでもない……。とはいえ演奏自体は端正そのもの。フレットワークは今年11月頃オデットとともに来日の予定だったみたいだが、いつのまにかキャンセル(?)になっている。次回に期待。

投稿者 Masaki : 23:39

2004年10月09日

ホプキンソン・スミス

待ってました、という感じで、昨日はホプキンソン・スミスのリュート・リサイタルへ。プログラムはダウランド。なんでも、前回3年前の初来日が、バロックリュートでのリサイタルはラストだったのだそうで、それ以後はルネサンスものを探求しているのだとか。プログラムは「エセックス王のガリアード」とか「デンマーク王のガリアード」「涙のパヴァーン」など有名どころをちりばめたプログラム。ホプキンソン・スミスはいい感じで円熟味を増している容姿。その奏でるダウランドも、よくありがちなスローテンポで哀愁をにじませようとするのでは全然なく、比較的軽快なテンポで淡々と弾いていくスタイル。ダウランドのよく言われる憂愁の情感が、構成美にあることを思わせる演奏。けれどもそれは、この人が感じさせる大陸的なものゆえかもしれないなあ、と。それもあって、アンコールで弾いたアテニャンのブランルとかは妙にしっくりくる感じだった。アンコールの2曲目は金澤正剛氏に捧げたアンソニー・ホルボーン。

投稿者 Masaki : 11:33

2004年10月04日

ボエセ

思わず唸ってしまうような見事なCDだったのが、ル・ポエーム・アルモニックによるアントワーヌ・ボエセ曲集『死せずに死す(Je meurs sans mourir)』(Alpha 057)。いや見事な演奏。えもいわれぬ哀愁、滞留する悲しみ、突き抜けるような高揚感……情感のうねりが喚起されること間違いなしだ。ボエセは17世紀前半に活躍した作曲家で、エール・ド・クールなどの世俗曲を中心に250曲近くの作品があるのだという。それにしてもどれも見事で、完成度の高さが窺われる。またこの演奏グループが実に表情豊かな音を作り上げている感じだ。

ジャケット絵の選択も秀逸。ボエセとほぼ同時代のルイ・ル=ナンによる『バッカスとアリアドネ』。深い哀惜に満ちたボエセの曲想によくマッチしている気がする。この絵はオルレアン美術館所蔵のもの。これに関連して、アリアドネの図像ページも一見の価値有り。

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投稿者 Masaki : 22:43