2004年11月20日

安土桃山

コンピレーションの面白さはやはりそのテーマ性にあると思うのだけれど、たまにあるのが安土桃山時代に「もしかしたら演奏されたかもしれない南蛮渡来の音楽」という趣向。その最新盤は平尾雅子『王のパヴァーヌ』(MH-1170)。安土城御前演奏会を模したというこれ、全体に選曲の妙にあふれていて、哀調を帯びた感じものと明るい調のコントラストがとてもいい。ジョスカン・デプレ、さらにはナルバエスの「ミル・ルグレ」などの有名曲と、それほど知られていない曲を織り交ぜているところも好感。端正な演奏がまた想像をかき立てる。仮にこれらの音楽が安土桃山時代にどこかで響いたとして、それがどのように聴かれたのかとても興味ある問題だよなあ。

これも同じような趣向ではないのだけれど、師匠こと水戸茂雄氏の『おお、栄光の聖母よ』(NSCD-54501)はおそらく国内初(?)の本格的ビウエラ演奏CD。「おらしょ」に残るという表題曲はナルバエスの編曲によるもの。その他はルイス・ミラン、アロンソ・ムダーラ、そしてやはりナルバエスの、それぞれの曲集から。とりわけ印象的なのはミランの第8旋法(ミクソリディア)のファンタシアなど。スタジオ録音ではないとのことで、その残響がまた味わい深い。シリーズものになるらしいので、これからも楽しみだ。

ジャケット絵はそれぞれ南蛮屏風(神戸市立博物館)と「マリア一五弦義図」(京都大学総合博物館)。ここでは後者を挙げておこう。カメリア(?)をもつ聖母というのは珍しい。
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投稿者 Masaki : 23:24

2004年11月14日

昨日は風邪ぎみのため、北とぴあの公演、モーツァルト「イドメネオ」(寺神戸亮指揮)を見逃してしまった。うーん、こういう上演はなかなか貴重なものなので、とても残念。ま、気を取り直して、とりあえず武久源造&コンヴェルスム・ムジクムによるシューベルト『鱒』(Alm、ALCD-1062)を聴く。コンサートでは即興に持ち味があるアンサンブルだけに、メインの五重奏曲イ長調「鱒」もなかなか表情豊か。けれどもそれに続く四重奏曲12番ハ長調「断章」にこそ面白さがある感じ。リートの王ことシューベルトは、器楽曲の方が面白いと前から思ったりしていたのだけれど(個人的先入観だけれど)、それを再確認する一方で、収録されている「トゥーレの王」と「水のうえで歌う」は、歌曲の味わいもまた再発見した思いにさせてくれる。前者の哀調、何ともいえませんなあ。

鱒(Forelle)はヤマメと訳す方がいいとかいう話もあったりするけれど、「音楽の変革を」というこのグループ、「山女」とかのタイトルで出すような冒険まではさすがにしなかったのね(大笑)。いずれにしても、昨今では古楽のムーブメントが落ち着いてくるにつれて、伝統的・従来的な演奏様式への振り戻しが起きているし、またレパートリーも保守化してきている気がする。それと並行して、ピリオド楽器での演奏も、今やワグナーあたりにまで来ているらしいし(NHKのFMで少し前に放送されたらしい……残念ながらチェックできなかったけど)、いろいろな意味で環境が変わってきているのだなあ、としみじみ思う今日このごろだ。

投稿者 Masaki : 19:40

2004年11月07日

アンナ・マクダレーナ

レオンハルトやアルノンクールなどの大御所が若い時分に出演した伝説的映画『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』。ダニエル・ユイレ、ジャン=マリー・ストローブ監督作品の67年の作品だ。これがニュープリントでタイトルも『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記』となり(子音が続くgは濁らないし、Chronikはやはり年代記の方がいいということよね)、紀伊国屋書店からDVD販売されている。学生の頃(えらい昔だ(笑))に一回観たことがあったけれど、当時はこちらも映画の見方が偏っていて「やけに生々しい演奏シーンばかりの、ドキュメンタリーとフィクションの折衷案みたいな変な作品」といった感想しかなかったのだけれど、今観てみると、バッハへのアプローチとしてこれ以上に真摯で優れたものはありえなかったのかも、と思ってしまう。当時を再現した演奏シーンに、手稿譜などの映像がちりばめられ、バッハの二番目の妻がその生涯を語っていくという趣向。ドラマ性は最低限に切りつめられ、象徴的な映像がそれを補う。ある意味で映像の極限的な構成美を作っているかもしれない。昔でも演奏が生々しく感じられたのは、奏者たちの思い入れがそれだけ強かったからだろうか?オルガン階上席の狭さなど、考証も確かだというし、レオンハルトとアルノンクールの協演(作中ではバッハとケーテン侯だが)とか、バッハによる通奏低音の解説の再現(手書き草稿として残っているものなのだそうな)とか、見所はいろいろだ。バッハ作品のアンソロジーとしても存分に堪能できる。今さらながらだけれども、やはり素晴らしい一枚。

投稿者 Masaki : 22:28

2004年11月03日

アストルガのスターバト・マーテル

ナポリ楽派続きだけれど、『アストルガ、ペルゴレージ、ドゥランテ』(フライブルク・バロック・オケーケストラ、DHM)(指揮はトマス・ヘンゲルブロック)はなかなか味わい深い一枚だ。全体的に端正な演奏で、緩急のメリハリが心地よい。アストルガのスターバト・マーテルの哀感は特に胸に迫る感じ。うーん、お見事。ライナーによるとこのエマヌエーレ・ダストルガ(Emanuelle d'Astorga:1680 - 1757)、スペイン系の名家の出で爵位も持っているのだそうだ。作曲は独学なのだそうで、音楽家としてのポストを得たことはないという変わった人物。作品としては室内カンタータが多く、18世紀に他の二人と同じく人気を博したという。

ジャケット絵は16世紀末から17世紀前半に活躍した画家ジョヴァンニ・ラフランコの作品。ミュンヘンのクリストクーニクスキルヒェの『聖母マリアの被昇天』だそうだが、これはネットでは見当たらないので、代わりにローマのバルベリーニ宮殿の天上画の写真を(全体と部分)。躍動感溢れる筆致が印象的だ。

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投稿者 Masaki : 00:53