2004年12月30日

年末のヴィヴァルディ

このところイタリアものが続いているけれど、年末のどこかせわしない雰囲気には、やはり疾走感のある音楽がいいのではないかな、という気がするので、そうなるとやっぱりヴィヴァルディが聴きたいかも。というわけで、今年はファビオ・ビオンディ&パトリツィア・チオフィによるヴィヴァルディ『モテット集』(Veritas)。ヴィヴァルディの宗教曲は緩急の動きが実に心地よいと常々思っているけれど、これもそういう魅力を余すところなく伝えている感じ。18世紀ともなると、モテットもソロで歌うのが一般化し、曲もかなり自由に作られるようになったとライナーにあるけれど、この演奏で聴く限り実に生き生きとしていて艶っぽい(笑)。

投稿者 Masaki : 22:59

2004年12月21日

「聖母マリアの夕べの祈り」

ちょうど一ヶ月ほど前、お知り合いの方からラ・ヴォーチェ・オルフィカの公演の案内をいただいた。ちょうど忙しい時期で行けなかったけれど、出し物はモンテヴェルディの『聖母マリアの夕べの祈り』。なかなか生で聴く機会のない曲だけに残念。で、これ、少し前にリナルド・アレッサンドリーニ指揮による話題盤が出ていたので、早速ゲット。『聖母マリアの夕べの祈り(vespero della beata vergine)』(Naîve)がそれ。聖母マリアのミニ図像集といった感じの冊子形式の体裁だけでも素晴らしいのに、録音がまたなんともリリック。パートごとにソリストだけで構成している。合唱を用いずソリストだけで構成するやり方は、バッハなどで最近目にするけれど、この作品の場合も、合唱を用いた証拠はどこにもないのだそうだ。いずれにしても眼にも耳にも艶やかな作りになっている。

表紙に使われているのは14世紀前半に活躍したイタリアの画家、シモーネ・マルティーニによる祭壇画『受胎告知』。義弟のリッポ・メンミとの共作だというこのテンペラ画は1333年のものだといい、ウフィーツィ美術館の所蔵。全体図は同美術館の該当ページで左上の画像をクリック。ガブリエルの口から告げられている言葉は「Ave gratia plena, dominus tecum(恵まれた者よ、主は汝とともにあり)」となっている。
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投稿者 Masaki : 23:17

2004年12月17日

オラトリオ「復活」

年末進行もちょっと一息。で、昨日はヘンデルのオラトリオ『復活(La resurrezione)』を聴きに出かける。去年から始まったヘンデル・フェスティバルの一環で、イタリア時代のヘンデル作品を取り上げているのが珍しい。でも、それだけに客の入りはイマイチのようだった。『メサイア』とかならこうはならないのだろうけれど……でもこの企画、今後もつぶれないで欲しいよなあ。ま、それはともかく。今回の『復活』、キリストの復活直前の情景を描いている変わり種で、主要な登場人物も、天使、悪魔、マグダナのマリア、クレオパのマリア、そして聖ヨハネのみ。なかなか動きに富んだ曲でダイナミックなのだけれど、惜しまれるのは、ちょっと歌い手の一部が子音のアーティキュレーションで躓いてしまっていて、なんだか一部イタリア語に聞こえなかったりしたことか。やっぱりdとかgとかlとかちゃんと出さないと……。プログラムには歌詞が掲載されていたけれど、やはり別刷りにして来場者全員に配るといった配慮も欲しい気がする。

1708年の初演では、登場人物が等身大で描かれた4メートル四方の背景幕が飾られたのだそうで、それを模して今回、会場には16世紀イタリアの画家アニーバレ・カラッチ(Annibale Carraci)による『墓の前の3人のマリア』を使った背景幕が置かれていた。それを掲げておこう。元絵はエルミタージュ美術館所蔵。
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投稿者 Masaki : 23:32

2004年12月10日

ダウランド再び

今週の日曜は内輪なリュート発表会。人前で楽器を制御するのはなぜこうも難しいのかなあ、と思ってしまう散々な出来(苦笑)。それでも今回の発表会では、弾き語りやヴィオラ・ダ・ガンバとの合奏などのパフォーマンスも見られて、いずれも素人ながら、取り組みとしては興味深いものがあった。うん、楽器の楽しみっていろいろな方向に引っ張っていけるものだなと改めて思う。

さてその反省も込めて(毎回同じようなことを行っているが)、ダウランドものを。少し前に『悲しみを忘れさせる眠りよ』を聴いたジョン・ポッターほかのメンバー(ダウランド・プロジェクト)の1枚目『暗闇に住まわせておくれ(In darkness let me dwell)』(ECM)を聴く。先に2枚目を聴いていたせいか、話に聞くほど生々しくメロウな感じはせず、確かにやや耽美的な雰囲気は醸しつつも、わりに抑制が利いていて、どこか底の方でさらっとした印象すら感じたのが……。また、明るい曲調の「Come Again」とか「Fine Knacks for Ladies」などの方が、むしろこのグループの持ち味なのではないか、とすら思えたり。もちろん「Flow My Tears」の雑音のようなバスの入れ方なども面白いのだけれどね。復活や再現などではなく、同じ演奏家のスタンスからダウランドの曲にアプローチするのだ、というライナーの記述にも好感。荒涼としたモノクロの風景写真がライナーに使われているせいなのだろうけど、国内盤は『暗闇にひそむ歌 -- ジョン・ダウランドの世界』なんてタイトルになっているみたいだけれど、そりゃちょっと違うんでないの?

投稿者 Masaki : 00:49

2004年12月04日

ヴェネチア

先日、東京都美術館で開催されている「フィレンツェ - 芸術都市の誕生展」を観た。写本や絵画などを中心として見応えのある展示会で、中世末期からルネサンス期にかけての都市の様子を、芸術品でもって立体的に浮かび上がらせようという趣向。ただ残念なのは、生活の一部としてかなり重要だったはずの音楽をまったく取り上げていないこと。これは片手落ちってもんじゃないのかしら……。とはいえ、取り上げられている絵画その他の作品の表現様式には、一種の並行関係として、音楽演奏や解釈に応用できるかもしれないものもある。例えば「カッソーネ断章」(カッソーネというのは衣装ケースのこと)という板絵は、人物の比率が建物に対して異様に大きく、そのため一種のモブシーンを活写することに成功している感じだ。別のカッソーネ絵では、左から右へと流れるようなストーリー性が描き込まれている。そう、ルネサンス音楽の表現形式もあるいはこうした誇張、流動性があってしかるべきなのかもしれないなあと。

フィレンツェと並んで重要なルネサンス都市がヴェネチア。最近聴いたなかなか素晴らしい一枚が『ヴェネチアの戴冠式 - 1595』(Virgin Classics、1990)。1595年にサンマルコ聖堂で行われたというマリノ・グリマニ総督の戴冠式を再現したものとのことで、考証はかなり綿密に行われているらしく、実に臨場感溢れる再現になっている。以前から評判を聞いていたけれど、まさしく名盤かも。この荘厳さ、ハイテンション。演奏しているのはガブリエリ・コンソート。収録曲はアンドレア&ジョバンニ・ガブリエリのもの。二人は叔父と甥の関係で、二人ともサンマルコ聖堂のオルガニストを務めていた。16世紀後半のヴェネチアというと、地中海貿易で繁栄し一時は18万人もの人口を誇る大都市になったものの、その後の疫病で人口が大幅に減り、以後、貴族たちがいわばヒッキーになって、その分都市文化としては円熟味を増したという話。これはまさにそうした爛熟期の音楽に相応しい。

ジャケット絵は16世紀初頭に活躍したヴェネチア派の画家ヴィットーレ・カルパッチオによる「聖マルコのライオン」(1519)。有翼のライオンはヴェネチアの守護聖人、聖マルコの象徴。ライオンの持つ本のページには、「汝に平和あれ、わが福音書家マルコよ」(pax tibi, Marce, evangelista meus)と書かれている。解説ページはこちら

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投稿者 Masaki : 23:12

2004年12月01日

エルヴェ・ニケ

早いものでもう12月。毎年11月あたりは忙しくて、コンサートなんかあまり行けないのだけれど、めぼしいイベントが集中するのも11月ごろだったりして、ちょっと悩ましい(笑)。ま、それはともかく。今年はシャルパンティエ・イヤーだったけれど、国内での関連イベントはさっぱり見当たらないのが残念。そんなわけでこのところ、廉価版『エルヴェ・ニケの芸術 - M. A. シャルパンティエ名曲集』を少しずつ聴いている。Naxosから出ているコンセール・スピリチュエル(あのヘンデルのウォーターミュージックの壮大な演奏でシビレさせてくれた団体だ)の4枚を合わせたセットものだけに、お得感ばかりが先に立ってしまうけれど、晩年の「テ・デウム」(あの有名なやつではない、念のため)と初期のミサ曲を合わせた3巻など、作品も珍しいものばかり。演奏のアプローチは割と正統派っぽいけれど、意外性が少ない分、作品の質感がよく味わえる気がするかな。

そのエルヴェ・ニケ、仏雑誌『Classica』9月号(特集はシャルパンティエ)の付録CDでは、モントリオールのラ・ヌーヴェル・シンフォニーという楽団を指揮していて、18世紀のダンドリュー(Jean-François Dandrieu)「戦争の諸相」(勇ましい感じの行進曲)やルベル(Jean-Féry Rebel)の小品をたっぷり聴かせてくれる。どちらもあまり馴染みのない作曲家だけれど、宮廷のダンス音楽などの表現の彩を改めて味合わせてくれて、逸品という感じだ。ラジオ・カナダの2003年9月の録音ということだけれど、雑誌の付録で終わらず、正規販売用のCD化とかしてほしいところ。カナダはいわばデラシネという感じで、欧州という根っこへのこだわりが根強いせいか、周知のとおり古楽の復興でも大きな役割を果たしてきたわけだけれど、その命脈は延々と受け継がれているといった感じ。素晴らしいっす。

投稿者 Masaki : 01:02