2005年01月29日

コルボ

ミシェル・コルボ率いるローザンヌ声楽アンサンブルほかによる『レクイエム:モーツァルト/フォーレ』 (Virgin Classics)を聴く。93年と95年の録音の2枚組で、なかなかのお得盤。うん、この団体の演奏はいつもながら不思議なことに、球形に浮かぶような音の空間がイメージされる。こういうのはバッハなどよりももっと時代が遅いものに適するんじゃないかと思っていたのだけれど、やっぱりそんな感じ。モーツァルトの『レクイエム』は早めのテンポときびきびした音の動きで一段と面白い演奏になっているし、フォーレの方は逸品という感じに仕上がった『レクイエム』以下、『ラシーヌ賛歌』、モテ(モテット)、『小ミサ』と続くのだが、どれも落ち着いた演奏で好感。

さてジャケット絵はカラヴァッジオの『キリストの鞭打ち』(ルーアン美術館所蔵)。この明暗のタッチが素晴らしいが、なるほどそうした光と影の対比は、どこかコルボの演奏に通じるものもあるというわけかな。
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投稿者 Masaki : 16:40

2005年01月24日

デュファイのミサ曲

このところ声楽曲が続いているけれど(笑)、去年出たデュファイの『ミサ「もし私の顔が青いなら」』(Alpha 051)を聴く。この4声ミサを演奏しているのはディアボロス・イン・ムシカという団体。指揮はアントワーヌ・ゲルベール。デュファイの曲の魅力もまた、どこまでも引っ張るその旋律の妙。この録音でも存分に堪能できる。ライナーによると、ミサ「もし私の顔が青いなら」は1452年から58年の間に書かれたものといい、サヴォア伯の依頼によるものなのだとか。デュファイは当時その礼拝堂付き合唱隊長を務めていた。自作のシャンソンがベース(テノール部がそのまま元の歌)になっていて、緊密な織りなしをなしている……いかにも端正な、計算され尽くした美というわけだ。

これはちょうど、ジャケット絵に一部が拡大されて使用されている同時代のジャン・フーケの絵画(「三位一体、万聖、聖母の戴冠」コンデ美術館所蔵)とも相通じる部分かもしれない。というわけで、その絵の全体図を挙げておこう。ちなみにフーケについては、フランス国立図書館のエキスポページがなかなかの充実ぶり。

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投稿者 Masaki : 23:14

2005年01月15日

イザベル1世

金曜深夜(というか土曜の朝)にBSで放送されていたモンテヴェルディの歌劇『オルフェオ』。今どき珍しい(笑)写実的な舞台でなかなか面白かったのだが、なんといってもジョルディ・サヴァール(原音重視のNHK表記ではホルディ・サバール)の指揮ぶりが目立っていた。そんなサヴァールの新作はハイブリッドSACDの『カスティリャ女王イザベル1世』(AllaVox)。表題のイザベル1世時代の音楽のアンソロジーなのだが、いや〜これは傑出した出来の一枚。イザベル1世といえばアラゴン王フェルディナンド1世とともにカトリック両王と呼ばれ、後のスペイン黄金時代の礎を築いた人物。曲はその生涯にそって年代順に構成されている。いかにも大陸という風な重厚な調べや、西方に特徴的(?)な哀愁たっぷりの曲、アラブ系の旋律、スペイン的舞曲など、いずれも表情豊かな音がこれでもかこれでもかと紡ぎ出される。まさに圧巻。至芸だ。

投稿者 Masaki : 21:20

2005年01月11日

タリス

今年は一応、トマス・タリスの生誕500周年ということになっている。一応というのは、実は確証がないということだから。ま、それはともかく、記念の年ということで、この作曲家の名を冠したグループ、タリス・スコラーズの旧盤からの抜粋(2枚組)が出ている。題して『タリス・スコラーズ、トマス・タリスを歌う(The Tallis Scholars sing Thomas Tallis』(Gimell)。トマス・タリスはヘンリー8世の時代からエリザベス1世の時代まで英国王室礼拝堂付侍従として仕え、80年ほどの生涯を全うした人物。演奏はもう何も言うことはないほど(笑)。ライナーによると、タリスの曲のスタイルは、ちょうど時代を反映する形で4つの時期に分けることができるのだという。ヘンリー8世時代の伝統的カトリック様式(1期)、エドワード6世時代のプロテスタント様式(2期)、メアリー1世時代には再びカトリック風に戻り(3期)、エリザベス1世時代の混合様式(4期)。このCDでは、それぞれの時期の代表作を2枚に収めている。1枚目は3期と2期、2枚目は4期と1期だ。有名な5声8パートから成る(40声)「汝のほかに望みなし(spem in alium nunquam habui)」など、とりわけ充実しているのはやはり3期か。2期の英語ものもしっとりとした演奏がすばらしいし。

CDに使われているジャケット絵は15世紀のイタリア(フィレンツェ)の画家で修道僧でもあったフィリッポ・リッピによる「聖ヒエロニムスの死」。最近、中世美術の風景画の変遷をまとめた越宏一『風景画の出現』(岩波書店)を読んだのだけれど、リッピの絵に描かれる風景もまた、マニエラ・グレカ(ビザンチン様式)の受容から綿々と続く伝統を強く感じさせてくれる。ここでは「聖アウグスティヌスの瞑想」を。

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投稿者 Masaki : 23:27

2005年01月03日

ノートルダム・ミサ

ヴォーカル・アンサンブル・カペラの公演に出かける。2年ほど前にも正月の公演を聴いたけれど、フランス式発音でのラテン語を聞ける数少ない機会でもあり、しかも今回はマショーのノートルダム・ミサ。このところ同時代の思想家ニコル・オレームなどを読みかじっているせいもあって、期待はいやがおうにも高まっていた。で、パフォーマンスは期待以上。マショーのノートルダム・ミサは、CDで聴くと、意外な旋律の動きがあったり、AmenのAの部分だけで何小節も続いたり、パートがそれぞれ主張している感じがしたりしてダイナミックな面白さが前面に出てくるような気がするのだけれど、今回はそんな風ではなく、実に調和の取れたアンサンブルになっていて、そういう中に置き直されると、会場となった教会の残響のせいもあってか、旋律のそれぞれの部分が違和感なくしっとりと「嵌っている」感じがした。「この音の動きも、なるほどこれなら納得」という感じがするのだから不思議だ。今回の公演では、グレゴリオ聖歌との組合せでミサ形式にしたところがまたよく、休憩時間には楽譜を聴衆に向けて見せるというオマケもついていた。年の初めからなんだか得した気分だ。感謝。

投稿者 Masaki : 23:39