2005年03月26日

聖ヤコブの晩課

これはちょっと感動的な一枚。『コンポステラ:聖ヤコブの晩課』(ambrosie)。コデックス・カリクスティヌス(カリクストゥス2世:12世紀の教皇)と言われる文書(巡礼ガイドなどを含む5巻から成る文書だ)の第1書にあたる読誦集から、聖ヤコブの祝日の前日(7月24日)に行われる晩課を復元したというもので、演奏はマルセル・ペレーズ率いるアンサンブル・オルガヌム。ライナーによると、特にアンティフォナの様式はシトー会やヒルデガルト・フォン・ビンゲンの歌とは対照的で、モノディの展開がラテン語のプロソディに実に忠実なのだという。なるほど、コンドゥクトゥス後の5つのアンティフォナは旋法別になっていて面白いかも。

ジャケット絵に使われているのはモワソン修道院の有名な柱廊。モワソンはトゥールーズ西方の街で、このベネディクト会の修道院はもともと7世紀に開かれたもの。


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投稿者 Masaki : 16:42

2005年03月19日

ガーンジー島

先のハープ・コンソートの日本公演では、もう一つのガーンジー島の民謡を中心としたプログラムもあったのだけれど、それは聴けなかった(アンコールでちょっとやったけれどね。CDの1曲目と最後の曲と)。で、彼らの最新CD『海で働く人々』(harmonia mundi)を聴く。ガーンジー島はノルマンディ沖に浮かぶアングロ・ノルマン諸島(チャネル諸島;英国領)の一つ。ヴィクトル・ユゴーが1851年以後亡命し『レ・ミゼラブル』を執筆した島。アルバムタイトルもそのユゴーの詩集(1866年)から取っている。ユゴーの詩は人と自然との闘いを描いたものというけれど、こちらのアルバムの方は、より牧歌的。どちらかとえば大陸系の雰囲気が濃厚だ。なるほど、旋律が残っていないものについては英国のバラッドやフランスの舞曲から「復元」したのだという。ハープ・コンソートを率いるローレンス・キングはこの島の出身だそうだから、思い入れも相当あるのだろう。演奏はいつもながら実に洗練されたもの。そのせいもあってか、「ありうべき」ローカルな演奏からはずいぶん遠ざかっていそうな印象を受ける。というか、伝統曲の難しさはそういうところにあるのだろう。沖縄などの音楽もそうだけれど、トラッド・フォーク的な再創造以外には道はないのかもしれない。もちろんそれはそれで面白い試みだけれどね。いくつかの歌の歌詞はジョルジュ・メティヴィエ(1790-1881)という詩人によるものらしい。ライナーノートには、19世紀の民衆詩の再発見というナショナリズム的な文脈も合わせて紹介されている。かつての「民衆文化」の再発見が(近年のもある意味そういう部分があるけれど)政治的なものにインスパイアされていたことは、やはり忘れてはならないなあと。

投稿者 Masaki : 21:17

2005年03月03日

カロラン

「ザ・ハープ・コンソート」の演奏会に行く。前々回の来日以来なので久しぶりだ。今回のプログラムは、17世紀後半〜18世紀前半に活躍したアイルランドの作曲家兼ハーピスト、トゥールロッホ・オ・カロランの音楽。この作曲家、全然知らなかったのだけれど、伝統音楽に大陸(フランス、イギリス)の音楽を融合した作風なのだという……でもカデンツァが下降せず、主音から上昇して戻るなんてところがいかにも「アイルランド風」だ。旋律の単純さもそう。聴く方としては、ノリのよい曲(プランクスティというのだそうな)ならともかく、メロウな曲はものによってちょっとダレる感じがしなくもない……。これまで大陸もので絶妙なパフォーマンスを見せていたこの演奏集団も、今回はちょっとおとなしげだったかも。とはいえ、アンドルー・ローレンス=キングの弾くアイリッシュ・ハープやプサルテリウム(ギターみたいに抱えて弾くというのが絶妙だ)の金属弦があまりに渋くて感激。ほとんどバンジョーのようなダブリン・ギターも、もっとちゃんと聴きたかったぞ(ソロの曲とかないのかね?)。

投稿者 Masaki : 15:56