2005年04月30日

フォル・ジュルネ

ネットワーク機器の不調で一日遅れになってしまったけれど、昨日はちょっとだけ「folle journée au Japon」のイベントで、コンチェルト・ケルン、RIAS室内合唱団、アペラ・アムステルダムなどによるベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」を聴く。コンチェルト・ケルンは初来日の古楽器オケとか。難曲だろうに、なかなかダイナミックに演奏していた。バイオリンのソロパートなんかも悪くなかったし。とはいえ、特に生音だと、ベートーヴェンは聴いていて余計に疲れるというか、くどいというか……前に書いたように、やっぱベートーヴェンはどうも今一つピリオド楽器が映えないように思うのだけど……。ま、これはこちらの姿勢のせいかな。いずれにしても、次回の来日の際にはぜひバロックものを(笑)。

それにしてもこのイベント、なかなか祝祭的雰囲気が出ていてよかった。本家のナントのフェスティバルは知らないけれど、東京国際フォーラム一帯はお祭り気分で盛り上がっている感じ。いいねえ、そういうの。コンサートも廉価で、しかも8:45分から(あるいは9:00からとか)という時間設定がいい。できればこういう、1時間から1時間半程度のコンサートを夕食後に定期的にやる、というスタイルが定着してほしいところなんだけど……。

投稿者 Masaki : 22:59

2005年04月28日

ビザンツ教会の聖歌

この二週間ほどは、新法王の選出から就任ミサなどいろいろあって、世界中がローマ・カトリック教会に注目した形だが、けれども正教の方も忘れてはならない(笑)。なにしろ音楽的に実に面白いし。というわけで、『ギリシャ・ビザンツ教会の聖歌』(Ocora、Radio France)を聴く。収録曲は18世紀のペトロス・ベレケティスが作曲したとさせる聖歌の数々。ビザンツ聖歌の伝統というオクトエコス(8つのエコス)で「アヴェ・マリア」の歌詞を歌っていくといもの。それぞれの旋律の趣の違いがとりわけ面白い。ライナーによると、オクトエコスは8世紀のギリシア教父、ダマスコスのヨハンネスが導入したと言われているのだそうだ。演奏はテオロドロス・バシリコス・アンサンブル。

投稿者 Masaki : 23:28

2005年04月23日

アラブ・アンダルシア

黄金時代のはるか以前、イベリア半島には絢爛たる文化が花開いていた……というわけで、いかにも祝祭の音楽という感じでご機嫌なのが、マドリードのアルティウム・ムジケーによる『アラブ・アンダルシアの音楽』(HMC 90389)。指揮はパニアグア。収録されている曲の旋律は、アラブ的ながらどこか妙にヨーロッパ大陸風でもあって興味は尽きない。当然ながら口承伝承的にしか継承されていない音楽。ライナーによれば、当時の代表的な音楽形式として有名なのは、「ターン」を表すナウバ(نوب)だそうで、これは一続きの旋律(صنع)がテンポごとに分類されているものとか。本来は24時間に合わせて24のナウバがあったのだという。一種のパターンなのだろうけれど、このあたりの話、ちょっと詳しく知りたい気もする。文献を探してみたい。それにしても、ギリシア哲学などがアラブ経由で中世の西欧に流入したことはよく知られているけれど、ギリシア音楽を最初に「発見」したのもアラブ人だった、という部分が興味深い。彼らはギリシア音楽を同化し、豊かにした。哲学の受容とそれはパラレルな問題をなしているかもしれないなあ、と。

投稿者 Masaki : 21:44

2005年04月16日

スペイン黄金時代

16世紀のスペイン黄金時代は、絢爛たる宮廷文化で知られているけれど、音楽ひとつとってみても、いろいろ謎が多いのだという。その代表はなんといってもビウエラ音楽。イタリアのバロックギターが伴奏中心でかき鳴らし型に行くのに対し、スペインのビウエラは細やかな技巧が発達したとされる。このあたりの話はリュートの師匠の受け売りになってしまうけれど(笑)、ビウエラのタブラチュアは、ルイス・ミランをもって嚆矢とするものの、そのフランス式表記(5線譜のように下から上へ高い音になっていく)のアルファベット(フレットを表す)を数字に変えた合理的な記譜法(今のギター譜に受け継がれている?)は流行らず、イタリア式表記(上から下へ高い音になっていく)が優勢になっていく。これはある意味で不思議な現象だ。

というわけで、ビウエラ音楽の細やかさや、声楽曲の哀愁に満ちたメロディを堪能できる逸品ともいうべき一枚が、アンサンブル・ウンダ・マリス演奏による『輝かしき月よ(Ay Luna)』(Alpha 064)。歌はフランスのギュメット・ロランス。収録曲もアロンゾ・ムダーラのファンタジアから始まって、ナルバエス、カベソン、ルイス・ミランなどの当時を代表する作曲家の代表作の数々。大陸の夕べを想わせる情感豊かなラインアップだ。ライナーによれば、ここで使用されているのは珍しい7コースのビウエラ(オリジナルはユアン・ベルムド作の1555年のもの)とか。当時、4弦ギターが世俗の歌謡の伴奏用だったのに対し、ビウエラは高尚なものと考えられていたという。そういえば、一説によると教会での伴奏にも用いられていたのではないかという話もある。今でも中南米あたりのカトリック教会では普通にギター伴奏などが入っていたりするけれど、そのあたりから当時の教会について多少の推測(というか想像)はできるかもしれないなあと。

このCD、ジャケット絵はエル・グレコの「毛皮を着た女性」(グラスゴー)。1577年から80年頃の作という。グレコはあの炎のような上昇感をもった宗教画の数々が圧倒的な迫力だけれど、一方で肖像画は実に写実的で、これまた味わい深い。
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投稿者 Masaki : 18:27

2005年04月10日

荘厳ミサ曲

ベートーヴェンは古楽器演奏なんかで聞いてもあんまり「生きない」曲が多いと思うのだけれど、なにかこう、かつての古楽器系の人々も「次に」アプローチしようとするそのモティベーションはなんとなく理解できる気もする。フィリップ・ヘレベッヘによる『ミサ・ソレムニス』(ラ・シャペル・ロワヤルほか、harmonia mundi)は、。バッハなどでの演奏アプローチの上澄みを適応させた、という感じなのだけれど、なんだかとても穏やかで、淡い光のような雰囲気。ライナーの冒頭では、ロマン・ロランが荘厳ミサをシスティーナ礼拝堂のミケランジェロに喩えた話が紹介されている。うん、曲想といい、ジャケット絵といい、なんだかローマ法王の葬儀の中継が蘇るよなあ。

そのジャケット絵は詩人でもあり画家・版画家でもあった(19世紀初頭)ウィリアム・ブレイクによる単刷り版画(モノタイプ)『エロヒムによるアダムの創造』。1795年の作で、ロンドンのテートギャラリーなどにあるもの。

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投稿者 Masaki : 18:17

2005年04月01日

ロザリオのソナタ

去年はビーバーの没後300年だった。それに合わせる形でリリースされたのが、アンドリュー・マンゼ&リチャード・エガーによる『ロザリオのソナタ』(harmonia mundi)。受託告知からマリアの戴冠までをドラマチックな15曲のソナタ+パッサカリアでなぞっていくという構成からしてもの凄い。曲想がそれぞれ大きく違っていて、明確なメロディラインが実に生き生きとそれぞれの情景をかき立てる。一般に難曲と言われているのだそうだけれど、マンゼのヴァイオリンはとても軽やかな躍動感があって見事。ライナーによると「ロザリオのソナタ」の成立は1670年代ではないかとのこと。曲ごとにチューニングが変わるのだそうで(変則チューニング:scordatura)、2枚目のCDの末尾にちょっとだけそれについての解説が収録されている。そのチューニングのせいで、普通レコーディングには複数の楽器を用意しておくのだそうだが、この録音では楽器は一つだけ、しかもコーティングなしのガット弦を張っているという。『戦争』などでもそうだったように、ビーバーは楽器を酷使するというけれど、それに的確に応えようとするマンゼの姿勢に再度拍手。

投稿者 Masaki : 19:30