2005年05月31日

シュタイアー

BSで昼間に、昨年の今ごろに行われたメメルスドルフ(リコーダー)とシュタイアー(チェンバロ)の公演を放映していた。プログラムはイギリスもの。メインは初来日だったというメメルスドルフで、シュタイアーは脇という感じ。でもこのシュタイアーの面白さは、なんといっても少し前に出たモーツァルト『ピアノ・ソナタ』(HMC 901856)で炸裂している。これ、有名なピアノソナタ10番から12番までを収録しているのだけれど、聞いたことのないような演奏が展開する。「楽譜に書いてないことをやっている」とかいって、すこぶる不満な向きもあるらしいのだけれど、バロック的な即興の精神をモーツァルトにまで活かしたという点でとても刺激的。拍手もの。古楽系からの流れの一つの結実点であることは間違いない。面白いぞ、シュタイアー。バロックものの録音はまだないみたいだけれど、チェンバロソロとか聴いてみたい。

投稿者 Masaki : 23:56

2005年05月29日

ミゼレレ2種

このところ風邪を引いてしまい、ちょっとコンサートを逃したりとか。残念。こういう元気のなさを吹き飛ばすほどの名盤がこれ。グレゴリオ・アレグリの「ミゼレレ」などを収録した『ミゼレレ/ミサ・モテット集』(Astrée、E8524)。アレグリのミゼレレはシスティーナ礼拝堂で聖週間に歌われる秘曲として有名。秘曲だったのだけれど、今やこの旋律はとてもよく耳にするもので(モーツァルトが書き取ったという話もあったっけ)、聖歌といえばこれ、という人もとても多いはず。でも、このよく知られているのは、実は18世紀末に限定的に歌われるようになった高音域だけの装飾音。17世紀にはもっと様々な装飾音が即興で歌われていたのだという。で、この録音ではその2種類のミゼレレ(復元した17世紀版と18世紀版)がともに収録されている。特にこの17世紀版の多彩さは見事なできばえ。これは大いに拍手もの。演奏はア・セイ・ヴォチ(6声、ですな)で1993年の録音。ミサ「私は大きな群集を見た(vidi turbam magnam)」やモテットもとても印象的だ。

ジャケット絵はシスティーナ礼拝堂のミケランジェロから、預言者ヨナの部分。どの部分なのかの情報がinseculaのページにある。
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投稿者 Masaki : 22:45

2005年05月14日

火の起源

ビンゲンのヒルデガルトものの新譜が久々に出ている。アノニマス4による『火の起源(The Origine of Fire)』(harmonia mundi)。今回はヒルデガルトの作った歌だけでなく、著作として残るそのビジョンの朗唱を合わせて収録しているところが面白い。さらにテーマとしては、タイトルにもある「火」を取り上げている。火や光はヒルデガルトのビジョンで頻出するテーマ。火は元素であるとともに聖霊になぞらえたりする。このあたり、キリスト教化した新プラトン主義の伝統との関係も気になったり。いずれにしても、ちょうど今度の日曜は今年の精霊降臨祭(ペンテコステ)だというから、時期的にもタイムリー(笑)。一曲目にはラバヌス・マウルス(9世紀の神学者)作と伝えられるペンテコステ用の聖歌「Veni creator spiritus」(来られよ、創造主の聖霊よ)が収録されている。録音はややテンポが緩慢な上に残響が凄いので、どこか距離感が感じられてしまうきらいがあるが、端正な歌声であることは間違いない。また、それぞれのビジョンの一節の朗唱(古いグレゴリオ聖歌に乗せて謳われる)は興味深い試みで、ヒルデガルトのテキストが歌に映えることを実証している感じだ。

ジャケット絵はやはりヒルデガルトの写本の挿絵から。これは神からのインスピレーションを受けてビジョンを執筆するところとされる一枚。
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投稿者 Masaki : 09:31

2005年05月05日

シーザー

フォル・ジュルネで来日のコンチェルト・ケルン。その演奏によるヘンデル『ジュリオ・チェーザレ(抜粋版)』(harmonia mundi)を聴く。ルネ・ヤーコプス指揮の1991年録音のもの。歌劇の抜粋版だけにほとんど各場面のアリア集という感じだけれど、さすがはメロディメーカーのヘンデルだけに、どれも名曲ぞろい。コンチェルト・ケルンの穏やかで張りのある音がまた心地よい。やっぱり古楽器的な良さを感じさせるのはこういうのだよなあ。ライナーによると、1724年にロンドンで初演を飾ったというこの作品は、当時は大成功を修め、ロンドンでは8年間で38回、その他各都市で数多く上演されたものだという。ヘンデルの作品としてはとりわけ人気が高かったらしい。

さて、このジャケット絵は17世紀前半にアントワープで活躍したフランツ・フランケン(II世)による「タルススへのクレオパトラの上陸」から。全体はずいぶんとパノラミックな構成なのに、ジャケット絵はごくごく一部で、この抜粋版CDの作品全体に対するスタンスに妙に合っている気もする(笑)。フランケンは神話や風俗を題材にした絵を多く残しているとのこと。

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投稿者 Masaki : 21:56