2005年06月21日

夏至の日にヴァイスを

フランスでは夏至といえば音楽祭と相場が決まっている……って、これは結構歴史が浅く、82年から。当時のジャック・ラング文化相が始めたもの。フランスの公式サイトなんかもあるのだけれど、いずれにしても夏至のお祭りとして悪くはない。ま、だからとうわけでもないけれど、個人的にもちょっと音楽ごもりもいいかもね、とか思ってしまう。で、このむし暑い最中には、結構ヴァイスなんかがよかったり(笑)。すっかり巨匠となった感じのロバート・バルトによる『ヴァイス−−リュート・ソナタ第6集』(Naxos、8,555772)が出ていた。今回は後期、初期、中期のソナタ3曲を収録(No.45、No.7、No.23)。相変わらずこの人のヴァイスはどこか瞑想的で、とても心打つものがあるわな〜。まさしくバロック絵画の陰影を思わせる憂いというか。実はこのCD、編集ミスでNo.7のサラバンドが2度、No.23のサラバンドとして入ってしまっている(こちらの掲示板で話題になっていた)。ま、愛嬌なんだけど、修正版とかちゃんと出るのかしら?うーん……。

ジャケット絵は17世紀の逸名画家による「リュート奏者」ということなのだけれど、ここでは一つ前の『リュート・ソナタ第5集』で部分的に使われていたルーベンス作とされる「リュートを持つ男」(1610〜15年頃)を掲げておこう。この画像では分からないが、ジャケット絵の手の部分の拡大写真で、10コースのルネサンスリュートであることがわかる。この細かな描き込み、なかなか素晴らしい。
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投稿者 Masaki : 20:02

2005年06月13日

ヘレベッヘの「第9」

ヘレベッヘ指揮、ロイヤル・フランダース・フィルハーモニーのベートーヴェン・チクルス。とりあえず昨日の第9だけ聴きにでかけた。いや〜これ、個人的には面白いベートーヴェン。古楽的アプローチで、テンポは早いわ、フレージングはくっきりで、対位法的な部分が強調されるわで、ベートーヴェンにつきもののくどさや重厚さが軽減され、軽やかでイキのいい新しいイメージになっていた。当然、こうしたアプローチは奏者に負担がかかる。そのためちょっとバラけている部分もあったものの、よく響かせていたと思う。音がステージをちょろちょろと移動する感じとか、モダン楽器にはめずらしい感触。ま、これだけ独特だと、従来のリスナーからは批判もあるだろうけれどね。第4楽章のまとめ方は確かに未完成という感じ。声楽が入る部分ではおもいっきし乱れていたみたいだし、早めのテンポは歌が聞こえてこない(何歌っているんだかわからない)恨みもあるし。でも果敢な挑戦と古楽的な持ち味での処理は、決して悪くない。なるほど、ベートーヴェンも結構面白くできるものなんだなあ、と。EUのテーマミュージックにもなっている第9は、いかにもジャーマンっぽい演奏よりも、こういう方が引き立つかもしれない(?)、なんて。

投稿者 Masaki : 12:11

2005年06月11日

ドン・キホーテの音楽

ホセ・ミゲル・モレーノとオルフェニカ・リラによるちょっと面白い企画盤『ドン・キホーテの音楽』(Glossa, GCD920207)を聴く。セルバンテスの『ドン・キホーテ』もしくはその他作品のサントラを意図した一枚。ルイス・ミランやアロンソ・ムダーラ、ルイス・デ・ナルバエスといった、リュートやビウエラでお馴染みの作曲家と、セルバンテスの同時代であるスペイン16、17世紀の逸名作者の曲がずらっと並ぶ。ホセ・ミゲル・モレーノ以下の演奏も端正で実に好ましい音作り。なかなかご機嫌だ。ライナーによると、セルバンテスの作品にはいろいろと音楽への言及があるようで、リュートやビウエラも登場する。ビウエラなどはキホーテ本人が弾きかける場面すらあるようだ。なんとセルバンテス本人が音楽家だったのではないかという説まであるのだとか(!)。いずれにしても、そうした楽器や音楽がもっと身近であったことは間違いなさそうだ(余談だけれど、ちょっと時代的に先行するラブレーの『ガルガンチュア』にも、リュートなどの楽器を学ぶ記述があったっけ。宮下志朗訳(ちくま文庫)のp.196)。ちなみに、『ドン・キホーテ』の仏文訳はPDFでダウンロードできるようになっている。http://jydupuis.apinc.org/vents/Cervantes-1.pdfhttp://jydupuis.apinc.org/vents/Cervantes-2.pdfがそれ。

ジャケット絵はベラスケスの『セビリヤの水売り』。ベラスケスはセルバンテスとほぼ同じ時代を生きている。この絵画は1620年頃の作品で、ベラスケスの21歳ごろの作品。カラヴァッジオ風の明暗法を取り入れたとされている有名な一枚。
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投稿者 Masaki : 19:14

2005年06月04日

ナポリ楽派の初期

イタリアン・バロックでは避けて通れないナポリ楽派。その初期(17世紀半ばごろ)の作曲家プロヴェンツァーレとカレサーナの曲で構成したCDが、『美しき礼拝(la bella devozione)』(nai¨ve(opus111)、OP30360)。「劇」的な躍動感に溢れた演奏はラ・カペラ・デトゥルキニによるもの。曲想としてすでに実にドラマチック。ライナーによると、ローマと違い、ナポリで多声の合唱が用いられるようになるのは、1630年代以降なのだという。それまではソリストの小グループを使うのが主流だったのだが、民衆を祭騒ぎから逸らすため教会が礼拝儀礼の規模拡大とスペクタクル化を図るようになり、多声の合唱を多用するようになっていく。ミサは音や光によって劇的に演出されるようになるわけだ。CDの後半に収録された「器楽つき5声の聖なる対話」(プロヴェンツァーレ)は一種の聖史劇。指揮のアントニオ・フローリオらが発見した写本によるものだという。これまた貴重な一曲だ。

ジャケット絵はスペインの画家カロンソ・カーノ(17世紀)による「福音史家ヨハネによるエルサレムのビジョン」。1636年の作とのこと。
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投稿者 Masaki : 23:36