2005年08月22日

ストラスブール……

個人的にライン地方の神秘思想(ヒルデガルトからアルベルトゥス・マグヌス、さらにはエックハルトなどへと拡がる系譜だ)を辿ろうとしている最中だけに、同地域に拡がっていたであろう曲も、たとえ直接的な関連がなくても気になるところ。そんな意味で聞いた一枚は、久しぶりに「エンシェント・ミュージック」の醍醐味を味わせてくれた。『ストラスブールの失われた写本』(アウスブルク古楽アンサンブル、Solstice、SOCD146)。1870年のストラスブール図書館の火災で焼失した楽譜の写本は、幸い当時の研究者たちによって写しが取られていたという。ベルギーの音楽学者クスマケルが残した222 C2という写本(15世紀)を他の写本とつき合わせることによって復元したものを中心としたのがこの盤ということらしい。フランスやイタリアの宮廷音楽の流れを汲んで、メロディの簡潔さにもかかわらず想像上の恋慕や哀惜などを歌い上げる渋さは実に濃密。大陸的な悲壮感の背景には13世紀以降のマリア信仰の伝統が響きわたっていることを改めて想わせる。うん、こういうのはもう少し涼しい秋口の夕暮れなどに聞くのが最高かも(笑)。

ジャケット絵はフランス東部ゲブヴィレール(オート・アルザス地方)にあるドミニコ会士教会(詳しくはこちらのサイトを)の壁画『ange musicien(音楽を奏でる天使)』。穏やかな表情の天使がハープを弾いている。

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投稿者 Masaki : 15:52

2005年08月15日

トリオ・ソナタ

ロンドン・バロックによる『トリオ・ソナタ−−17世紀フランス』(BIS、CD-1465)を聴く。標準的、という形容がぴったりくる感じの禁欲的な(?)演奏。けれどもトリオ・ソナタの端麗さ(淡麗さ?)というのは、そもそもこういう感じかもなあ、と。宮廷での音楽に取り込まれる過程で、舞曲がかならずしもダンスを伴わなくなっていくのは、やっぱり17世紀末のソナタ形式の普及によるのかしら、なんてことを改めて思わせる。復習しておくと、トリオ・ソナタはヴァイオリン2台とバス担当のチェロ、そして和声補充のチェンバロが加わる、3声4人のもので、コレッリが整備した形式。1690年代までにはイタリアからフランスへと輸入されて定着し、フランスの作曲家らもこぞって採用するようになる。この盤で取り上げる作曲家もリュリ、ジェオフロワ、クープラン(ルイ、フランソワ)、ル・ルー、クレランボー、マラン・マレ、レベルなど17世紀を代表する人々。

ジャケット絵も同時代のフランソ・デポルトによる「桃の載った銀のキャセロール」(部分)。宮廷画家としてルイ14世、15世につかえたデポルトは、最初は動物画家として有名になったものの、後に静物画でも名を馳せた。光沢を表す白の鋭さがとても印象的。ちょうど桃の季節だけに、結構タイムリーかも。
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投稿者 Masaki : 23:04

2005年08月08日

バロックリュート

7月下旬に新しいリュートを購入した。13コースのバロック・リュート。製作家はスペインはマジョルカ島在住のアレクサンダー・ホプキンズ氏。空輸がちょっと心配だったけれど、問題なく到着した。パリの楽器博物館にある11コースのフレンチスタイルのリュートをベースに、バスライダーをつけて13コースに拡張したものという。普通の楽器よりもだいぶ重いらしい。けれど音はなかなか。一応写真を公開しておこう。

それにしてもこれまでやっていたルネサンス・リュートとは勝手が大分違う。フレットの幅も違うし、低音弦の数が多いので慣れるのが大変。スラーとかもちゃんと音が出ていないぞ、俺。うーん……練習あるのみか。

関連して、というわけでもないけれど、このところよく聴いているのがロバート・ストリツィヒのバロック・ギターによる『ルイ14世紀の宮廷ギター音楽』(DO337)。収録しているのはフランチェスコ・コルベッタとロベール・ド・ヴィゼーの作品。ライナーによると、5コースのスパニッシュ・ギターは1640年より以前に伴奏用楽器としてフランスで流行していたものの、本格的なソロ楽器として重用されるきっかけは、フランスの宮廷に取り入れられたことだったという。で、ルイ14世に教えたのがコルベッタで、さらにそれを継ぐのがヴィゼーだったという話。ヴィゼーにはリュートのレパートリーもいろいろあるし、ちょっと勉強してみたいところだ。

ジャケット絵はほぼ同時代のジャン・アントワーヌ・ヴァトーの『四人組』。右端の人物がバロック・ギターを下げている。
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投稿者 Masaki : 23:14

2005年08月05日

ヴェルサイユの大噴水

フランスは西部地域が渇水だそうだ。さらにもっと深刻なのはポルトガルで、一部地域は昨年10月から雨らしい雨が降っていないそうで……。うーん、気候の変動は確実に迫っているわけか……。ま、それはともかく。暑い夏にちょっと涼しさを……とは誰しも思うけれど、音楽でそういう清涼感というのはなかなか難しい。せめてタイトルだけでも……と最近ゲットしたのが、ジョルディ・サヴァールが指揮するル・コンセール・デ・ナシオンの『ヴェルサイユの音楽大噴水(Les Grandes Eaux Musicales de Versaille)』(Alia Vox, AV9842)。これまでのサヴァールの演奏からのアンソロジーで、ルイ13世、14世の時代の音楽を中心に選曲している。なかなかにお得な一枚かも。けれども曲自体はヴェルサイユの大噴水そのものには関連がない。このコンピレーションは、ヴェルサイユ宮殿で催される今年の噴水ショーを記念したもので、今年その音楽を担当するのがサヴァールということらしい。そういえば、ライナーにもあるけれど(デフォルトで日本語やロシア語、中国語での解説まで入っている。編集ミスか表記がサバイになっているのはご愛敬だけど)、ルイ13世ってリュート奏者だったんだよなあ。どんなレパートリーを弾いていたのだろう?探ってみようかしら。

ジャケット絵はヴェルサイユの敷地内にあるグラン・トリアノンにあるジャン・コテルの絵画「山型の噴水(montagne d'eau)」の一部。全体は次のような感じ。コテルのその他の絵は、例えばこちらとか、こちらを参照のこと。
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投稿者 Masaki : 16:41