2006年01月24日

モーツァルト・イヤー

生誕250年だってんで、取り上げられる頻度が多くなりそうなモーツァルト。けれども記念されるべき音楽家はもちろんそれだではないわけで。パッヘルベルとかダウランドなんかも一応切れのよい年ではあるんだけれどねえ……。ハイドンの弟、ミヒャイル・ハイドン没後200年なのだそうで。そんなわけで、ボルトン指揮のM.ハイドン『レクイエム』(OEHMS、OC 536)を聴く。ザルツブルク音楽祭のマチネからのライブ録音だそうだ。最初にモーツァルトの『悔悟するダビデ』(K.469)が入っている。これ、芸術家協会に入会するための作品提出に間に合いそうになくなったモーツァルトが、未完のハ短調ミサにアリアをくっつけて間に合わせたという作品。ハ短調ミサの別バージョンという感じだ。とてもバロック的・対位法的なコーラス部分に対して、いかにも軽やかなアリアが織りなされるというコントラストがとても面白い(笑)。対するM.ハイドンの『レクイエム』は、なるほどモーツァルトのレクイエムのお手本かもというだけあって、どこか色調が似ている感じだが、逆にモーツァルトの処理が際だって見えてくる気がする……ってこれは相当にフィルタのかかった見方だよなあ、いかんいかん。そのあたりを反省しつつ聴くと、これは結構スケールもでかいし味わい深いし。

投稿者 Masaki : 15:23

2006年01月19日

ムジカマーノ

昨日はリュート奏者のヤコブ・リンドベルイ率いるムジカマーノの来日公演に。「めざめよ、甘美な愛」というダウランドの歌曲をタイトルとした、ルネッサンスからバロック初期のイギリス音楽のプログラム。ソプラノ二人にテノールとバス、そしてリンドベルイのリュート伴奏という一種の最小構成で、実によいバランス。前半はダウランドを中心にした構成で、リュートソロもあって、ダウランド「ア・ファンシー」やらダニエル・バチュラーの曲などを弾いていた。うん、イギリス音楽とはいいながら、とても大陸的な感性をもった演奏。定番ともいえる「ラクリメ」もよかったし。後半はキタローネとバロックギター。こちらになるとちょっと単調な感じで、少し眠くなった(笑)。でも『ハムレット』の「生きるべきか、死ぬべきか」という台詞にチェーザレ・モレッリが音楽を付けたという曲など、面白いものも。英語の曲はやはりウケがいいこともあってか、古楽の演奏会ではめずらしく観客席からブラヴォが飛んだりもした。確かに端正で丁寧なパフォーマンスだったように思う。

投稿者 Masaki : 13:00

2006年01月13日

[書籍] ハーモノグラフ

ランダムハウス講談社のピュタゴラス・ブックス・シリーズの一冊、アンソニー・アシュトン『ハーモノグラフ−−音がおりなす美の世界』(青木薫訳、2005)は、目にも優しい(笑)一冊。19世紀に発明されたというハーモノグラフは、音の振動を図に表す簡単な構造の機械。この装置で和音が図に描かれると、これが美しい幾何学模様になる。そうした図版を眺めているだけでも楽しい。中でも、完全な協和からちょっとしたずれがある時が、とても美しい画像になるのだという。うーん、まさしくこれは差異の美学。本書は音の成り立ちの基礎的な事項解説にもなっているのだけれど、完全5度の重ね合わせがぴったりとオクターブの比に合わないという、いわゆる「ピュタゴラス・コンマ」などは、そうした差異の美学の核心部分かも。著者も「このわずかなずれには、宇宙は量子の不確定性に従って対称性の破れにより形成されたという科学的世界観と響き合うものがある」(p.67)なんて語っている。うーん、いいなあ、これ。ハーモノグラフ、作ってみたくなってきたぞ。

投稿者 Masaki : 19:16

2006年01月07日

[書籍] 当世流行劇場

こういう本がそもそも翻訳されて出版されること自体に拍手、という一冊がベネデット・マルチェッロ『当世流行劇場』(小田切慎平、小野里香織訳、未來社、2002)。マルチェッロは18世紀のヴェネツィアの音楽家。その彼が1720年に、当時のオペラ業界の様子をかなり辛辣に描いた小冊子(当時は匿名出版だったという)がこれ。そんなわけだから面白くないわけがない。登場するあらゆる業種(台本作家から歌手、劇場支配人、演奏家、美術担当までいろいろ)がいかに傲慢で、テキトーで、目立ちたがりかという下世話な話が満載だ(とくに当てこすられているのはヴィヴァルディなのだとか)。多少の誇張はあるだろうけれど、高貴な雰囲気を讃える華やかな音楽の一方で、こうした下世話で退廃的な、怪しげな都市文化がうごめいているというのは、17世紀末から18世紀にかけての実像なのだろう。歴史的理解という意味では、やはりそのあたりの表と裏の両方を視野に収める努力というのは必要だろうなあ、と。この本、業種別の章立てになっているけれど、それぞれの章のあとに訳者解説という形で、当時の文化的背景の概略が記されているのがとてもいい。

投稿者 Masaki : 14:02

2006年01月04日

ミノレ

年明けとはいえ教会暦ではまだクリスマスなので、この時期のお勧めCDをもう一枚。ギヨーム・ミノレ『クリスマス・ミサ』(アリア・ヴォーチェ、フィリップ・ル・コルフ指揮、D3050)。西欧の典雅なミサ曲として文句なしの感動作。ギヨーム・ミノレ(1650-1720)は王室礼拝堂(シャペル・ロワヤル)の副楽長の一人なのだそうで、楽長だったド・ラランドの同時代人。ところが音楽史的にはこれまで埋もれた人物だった。現存する曲がそれほどないせいだという。この1枚はそのミサ曲の初録音という。構成としては、ミノレ作のキリエ、グロリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ、「主よ、王を救い給え」を、同時代人のド・ラランド、シャルパンティエなどの器楽曲、アンドレ・レゾンのオルガン曲など関連する曲を交えて紹介している。それにしてもやはりとりわけ感動的なのはミノレのミサ曲そのものだ。わかりやすい上にダイナミックな盛り上がりを見せるこの旋律の妙。ライナーによると、ミサ用の歌が重複されて用いられ、他に類を見ないほどに構成が意識されているのだという。これって一種の編集技法の冴えということか。また、旋律と歌詞との結びつき方に意外性があるのだとか。全体として見れば、これほどの曲が埋もれているなんて……バロック時代の再発掘にかけるル・コルフの意気込みも感じられるかも(?)。

投稿者 Masaki : 17:34