2006年02月24日

トリオ・メディエヴァル

3人の女性だけというノルウェーのアンサンブル「トリオ・メディエヴァル」を聴く。といっても、昨年出たらしい最新作ではなく、2枚目にアルバム『Soir, dit-elle』(ECM、476 1241)。レオネル・パワーという、ダンスタブルと同時代の英国の作曲家(15世紀前半)のミサ曲「うるわしき救い主の御母よ」を軸にすえ、その合間に4人の現代作曲家によるミサ曲(!)が入り、壮大なマリア賛歌が奏でられるという趣向。ルネサンス的な響きのコラージュを思わせる現代の作品が無理なく接合されていて、ちょっと驚かされる。まさにこういうのが古い楽曲の新創造だ。それにしてもわずか3人でこの音の広がり。もの凄い。師匠筋のヒリヤード・アンサンブルを凌ぐほど。アメリカなどで高い評価を得ているというのも頷ける感じ。

投稿者 Masaki : 16:15

2006年02月22日

[書籍] モーツァルティアーナ

かなり前に購入して積ん読になっていた『モーツァルティアーナ』(東京書籍、2001)を、いまさらながら引っ張り出して眺める。音楽学者、海老澤敏氏の古希を記念した論集ということで、日本の研究者のそうそうたる顔ぶれが寄稿しているほか、いくつか翻訳ものも。こういう論集でこの値段というのはかなりお得ではないかしら。ま、確かに個々の論文はページ数の制約からか小品なのだけれど、それにしてもモーツァルトを中心に幅広く音楽学の主要テーマを集めているところなど、まさに研究状況の縮図という感じもする。紙上の報告会という感じで見ると、とても面白く読むことができる。モーツァルトイヤーだからというわけでは全然ないのだけれど、宗教音楽の論考などを読んでみたり(磯山雅、ニール・ザスロウ)。あと、日本国内でのモーツァルト受容史などは比較的新しい分野(渡辺千栄子、吉成順)。

投稿者 Masaki : 12:36

2006年02月11日

トラッドの継承

王子ホールが「音の世界遺産」と題して始めたらしいコンサートシリーズ。その1回目を聴きに行った(昨日)。西アフリカのグリオ(口承の伝統を継承する専門の楽人集団)、ジェリ・ムサ・ジャワラによるコラの弾き語り演奏会(ゲストの女性ダンサー兼歌手によるパフォーマンスつき)。コラ(kora)はいわゆるリュート・ハープに分類される撥弦楽器。リュートやギターが弦を表面版に水平に並べているのに対して、コラでは弦はハープよろしく縦に並べてあるのが特徴。共鳴体にはひょうたんが使われているそうで、弦は一般に21弦(ナイロン弦でやさしい音色だ)。今回のコンサートでは、よりモダンな32弦コラや、エレキ・コラまで登場した。演目は前半が伝統曲、後半がコンテンポラリーで、コラの可能性の広がりを感じさせるプログラム。調弦を変えることで、ブルースやジャズにまで対応できる。そういえば奏者のジェリ・ムサはモリ・カンテの異父弟なのだそうだ。

以前「東京の夏・音楽祭」で聴いたスンジャタ王(マリ帝国の建造者)の歌(語りとうより完全に歌だ)でも思ったけれど、この実にヴィヴィッドな音楽世界は、伝統とコンテンポラリーの垣根をあまり感じさせない。躍動感に満ちていて、むしろ両者の連続性を強く印象づける。拍の取り方などが、ジャズなどにすんなりつながっていく。その意味では、このコンテンポラリーへの開かれ方は、時にどこか(微妙に)無理強いな部分を感じさせることもある(?)西欧のコンテンポラリートラッドなどよりも自然かもしれない、なんてことを思ったり。

投稿者 Masaki : 18:03

2006年02月05日

トレチェント

1300年代のヨーロッパはいろいろな意味で躍動的な文化的事象が色めき立つ頃合い。それをタイトルにした『トレチェント』(olive music, om002)を聴く。ソプラノのジル・フェルドマンと、リコーダーとフィドルをこなすケース・ブッケの二人組。余計なもののいっさいない、まさにミニマルな音の調和、という感じ。曲目は、ギヨーム・ド・マショー、アンドレアス・オルガニスタ・デ・フロレンテイァ、マテオ・ダ・ペルージャ、そしてヨハネス・チコニアなどの世俗曲の数々。とりわけチコニアのバッラータが切々としていて好感。ただまあ、CDの全体的に単調な感じは否めないか。ライナーの解説では、記譜のシステムに代表されるスタンスの違いから(伝統に固執するフランスと自由闊達なイタリア?)、フランスのアルス・ノヴァに対する形でイタリアの14世紀音楽を「トレチェント」と称している、などと書かれているけれど、この録音はむしろ、双方の連続性のほうを強く感じさせる。

ジャケット絵は15世紀の初め頃に活躍したらしいマエストロ・ヴェンチェスラオとう画家の月別の寓意から「10月」。この画家、詳しいことは不明。ネットには雪合戦を描いた「1月」があったので、載録しておこう。中世というとホイジンガの影響か、今だに「秋」のイメージが前面に出る傾向があるけれど、そういう固定イメージを是正する意味でもいいかもね。
Venceslao.jpg

投稿者 Masaki : 23:18