2006年07月28日

サンチアゴ

これまた名盤と呼べそうなのが、ジョン・エリオット・ガーディナー&モンテヴェルディ合唱団による『サンチアゴ・ア・カペラ』(Caja de Burgos)。一言で言って、人の声の凄さに久々に出会える。内容は2004年に行われた、合唱団40周年の巡礼コンサートの録音だという。モンセラートの朱い本や、ゲレーロ、ロボ、ホアン4世、ビクトリア、トマス・ルイス、カルドーソ、フィリップ・ロジェといった、スペインにゆかりのある曲集、あるいはそこで活躍していた作曲家の作品のアンソロジーになっている。全編、同合唱団の透き通るような声の幾重ものに織りなされる様は圧巻で(声部は多くても3声程度なのに、この立体感はちょっとものすごい)、CDのコンセプトどおり、全霊をかけておこなう一種の苦行だった中世の巡礼の旅(サンチアゴ・デ・コンポステッラの巡礼はもともとレコンキスタ運動とも関連していて、やや政治的な意図などもあったという話なのだけれど)の果てに見出される「報い」を追体験させてくれるような気がするから不思議だ。

ジャケット絵のホタテ貝は巡礼のシンボルだが、これもまた起源は諸説あって、一般には、ヤコブがスペインに到着した船に貝がたくさんついていたのが起源と言われているようだ。今ヨーロッパは熱波に見舞われているようだけれど、最近はツーリズム的になったといわれる巡礼行も(バックパックに自転車とか)、それほど暑ければ別な意味での修行のようになっているだろうなあ、と思ってしまう(笑)。

投稿者 Masaki : 22:07

2006年07月21日

ヘレヴェッヘ2枚

久々にヘレヴェッヘ指揮のものを2枚聴く。1枚はついにピリオド楽器演奏も時代的にここまで来るか、という感じのブルックナー『交響曲第4番』(HMC 901921)。ブルックナーなんてめったに聴かないんだけれど、こんなに土臭く、と同時に清涼な感じもするものだったっけ?、という不思議な印象。 ヘレヴェッヘ+オーケストル・デ・シャンゼリゼのブルックナーとしては2枚目で、2004年末の交響曲第7番が事実上初のブルックナーのピリオド楽器演奏となったのだそうで、そちらは未聴だけれど、後で購入してもいいかな、と。このどこかさらっとした流れるような感じは、バッハなどでも見られたヘレヴェッヘ節か……。荘厳さなどを求める向きにはひょっとして不評かもねえ。

で、もう一枚はコレギウム・ヴォカーレ・ゲントのカンタータシリーズの最も新しい盤(2005年)。『泣き、嘆き……』(HMC 901843)。収録曲は表題の12番「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」のほか、38番「深き苦しみの淵より、われ汝を呼ぶ」、75番「貧しき者は饗せられん」。演奏はやはり端正でどこから軽やかながら、随所で重みや陰影の表現を増している感じ。とくに12番などは曲想がそうだからだろうけれど、テンポ設定もゆっくりで、とても情感的に盛り上がる。

こちらのジャケット絵はボッティチェルリの「キリストの死の嘆き」。ボッティチェルリこのテーマのものはいくつかあるけれど、これはミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館のものとか。
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投稿者 Masaki : 23:46

2006年07月08日

アラブから見た十字軍

アミン・マアルーフの名著『アラブが見た十字軍』(ちくま学芸文庫)ではないけれど、『オリエントから見た十字軍(les croisades sous le regard de l'Orient)』という2枚組CDを聴く。紛うかたなきアラブ音楽。歌はオマール・サルミニ。演奏はアンサンブル・アル=キンディ。著名な哲学者(9世紀、イスラム逍遙学派の始祖)の名を冠した、なかなか心憎いアンサンブル。歌は基本的に古典的な詩で、その朗唱(そう言ってよければだが)を伝統的アレンジとインプロヴィゼーションでもって演奏しているもの。なんだか夏っぽい感じで、ちょっと余計に暑くなるかも(苦笑)。

このCDは冊子形式になっていて(こういう形式はとてもいいねえ)、そこで中心的に取り上げられているのはウサーマ・イブン・ムンキズという年代記作者。フランク族のシリア襲来(1097年)の2年前に生まれ、エルサレム解放(1187年)の1年後に没したという、ある意味で数奇な人物。上のアミン・マアルーフの本によると、その主著である自伝は1893年にパリで初めて刊行されたのだという。さらに詩も残っているようで、CD1枚目にその1つが取り込まれている。

投稿者 Masaki : 23:04

2006年07月01日

トリスタンとイズー

ブリジット・レーヌ&ピエール・アモン率いるアラ・フランチェスカによる『トリスタンとイズー』(ZZT051002)を聴く。当然ながらワーグナーではない。13世紀ごろとされるトリスタンのレー(短詩)をウィーン写本からピックアップし、順番を入れ替えたりしながら、ストーリーを構成するよう復元したもの。少し前にエッダ版『ラインの黄金の呪い』を聴いが、こちらも同じような復元版。とはいえ、鮮烈さ、情感的揺さぶりという点ではこちらが一枚上か。ケルト起源とも言われるトリスタンの話だけれど、どこか悠久の時間と風景、寒々とした大地などを思わせる音楽的広がりは、もはや名盤の域と言ってもよいくらい。

ライナーの記載によると、トリスタンの一連の最古の文書は1170年頃に登場するといい、トゥルヴェールたちの古フランス語の詩、マリー・ド・フランスの「スイカズラの詩(レー)」などを経て、ドイツやデンマーク方面に伝えられていく。さらに13世紀ごろのからは騎士物語の影響を受けつつ散文形式の版が作られ、16世紀ごろまでの根強い人気を誇ることになる。散文ものといっても、時折詩を挟むのが一般的で、おそらくそういう詩は歌われていたのだろうという。で、メロディの記載がある写本は2つだけで、とくに重要なのがそのウィーン写本なのだという。

投稿者 Masaki : 19:11