2006年08月28日

雑感

昨日は都内某所で開かれた第4回ビウエラ講習会。昨年くらいからずっとダ・ミラノの曲をルネサンスリュートで練習している勢いで、無茶は承知で受講させていただく(ダ・ミラノものはビウエラプロパーの曲ではないけれど……)。とりわけ小川伊作氏による旋法からアプローチする曲の分析(ルイス・ミラン)のさわりがとても興味深いものだった。16世紀ぐらいだとちょっとあり得ないのではと思われるような、かなり奇妙な和音も(スペインは文化混淆の地なので、変なものが出てくる可能性は排除できないわけで)、旋法アプローチだと説明できるかもしれないという話。なるほど音楽史もいろいろ変わっていくのだなあと。

さて、そのクールダウンを兼ねて(笑)、今日はちょっと「変」なCDを聞く。哲学者ミシェル・セールとイザイ弦楽四重奏団によるハイドン『十字架上のキリスト最後の7つの言葉』(Ysaÿe Records)。ハイドンの曲の合間に、セールの詩的な文章が朗読される(本人によるもの)という趣向のコラボだ。曲は全体的にテンポが緩く、セールのテキスト朗読(キリストの言葉が人間の言葉へと拡散する、その微妙なずれを舞台化している印象を与える)がアクセントになっていなければ、ちょっと間延びした印象になってしまうかも……というか朗読も考慮した上でのたテンポ設定なのかしら?『十字架上のキリスト最後の7つの言葉』は、もとが管弦楽版で、同年に四重奏版が出来、オラトリオ版はその後なのだとか。四重奏版はレトリカルに凝縮されているというが、この録音では旋律を中心にずいぶんとストレートな音が投げかけられている感じ。

投稿者 Masaki : 13:09

2006年08月18日

スターバト・マーテル

カトリックでは8月15日という聖母被昇天祭。ルルドへの巡礼などもまさにピークになるらしく、また行例も行われる。で、ちょうどタイミングよく、今年は昨年末にリリースされた、エマ・カークビー(ソプラノ)、キャサリン・デンリー(アルト)参加の『ペルゴレージ:スターバト・マーテル』(LAMM 184D)を聴いてみた。聖アルバンズ修道院少女合唱団、ロンドン・バロック、サイモン・ジョンソン指揮。表題作のほか、ビンゲンのヒルデガルト、シャルパンティエ、モンテヴェルディなどの曲を加えた構成。考えてみるとペルゴレージもののCDって、あまり持っていない。今回のこれが比較的珍しいのは、児童合唱団に歌わせていることか。でも、ちょっとどうなんだろうなあ。エマ・カークビーもなんだかちょっと……調子が悪いのか、あれれ、こんな感じだったっけ?、という印象。全体として今ひとつか。スターバト・マーテルは曲は素晴らしいので、ちょっと名盤を探したいところ。でも今回のCD、ライナーは結構参考になって、スターバト・マーテルの歌詞が、1300年頃にフランシスコ会修道士のジャコポーネ・ダ・トッディの作だという話や(なぜかずっとボナヴェントゥラの作だと思っていたのだけれど(苦笑))、ペルゴレージの曲が26歳にして没する直前に書かれたものだという説が否定されていたり(もっと長いスパンで書かれたという話)と、なかなかに興味深い。

投稿者 Masaki : 22:11

2006年08月13日

夏はヴァイス

そう、夏の夜とかに何を聴くかと迷ったら、意外にヴァイスとかがいい(と個人的には思う)。結構涼める感じがするから不思議だ。特にロバート・バルトの一連のソナタ集など。最近、やはりNAXOSから『リュート・ソナタ第7集』(8.557806)が出た(NAXOSライブラリーでも聴ける)。収録曲は中期のソナタ第15番変ロ長調と、後期のソナタ第48番嬰ヘ単調。前者はどこか初夏の夜を思わせる牧歌的な曲想。対する後者はどこか晩夏の夕涼みのような微妙な陰影と渋みを備えた雰囲気。ヴァイスの作曲の円熟味を感じさせる曲だ。いつもどこか精神的に沈潜していくようなバルトのリュート演奏は、今回はテンポもゆっくりで、少し鷹揚な感じがする。重すぎず軽すぎずといった感じの微妙なバランス。録音場所のせいか、残響が少し強調されている感じだ。そのあたりが、熱い夜などに聴くとちょっといい感じ。

ジャケット絵は17世紀の肖像画家フランソワ・ド・トロワによる有名な『シャルル・ムートンの肖像』(ルーヴル美術館所蔵)の手元の部分。描かれているのは11コースのリュート。おそらくはフレンチのバロックリュートか?シャルル・ムートンはルネサンスから初期バロックの過渡期のリュート奏者。試行錯誤の末、バロックリュートのニ短調のチューニングが決まったのもこの時期。

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投稿者 Masaki : 21:33

2006年08月05日

地中海

久々にNAXOSもの。いまやNAXOSものはオンラインライブラリーで聴けるので(有料)、あまりCDを買う気がしなくなっているけれど、やはりデータを手元に残しておきたいと思うと、CDのような物理媒体もまだ捨てがたい……かな?オンライン配信のもう一つの問題は、ライナーがなかったりすること。NAXOSライブラリーはいちおう用意しているみたいだけれど、たとえばiTunes Music Storeなどではライナーを読む楽しみは味わえない。このあたり、まあ徐々に改善されてはいくのだろうけれど……。

というわけで、いくつか購入したNAXOSものの1枚は、『ビザンティウムからアンダルシアへ−−中世の音楽と詩』(8.557637)。演奏はオニ・ウィタルス・アンサンブルで、2001年末のおそらくライブ録音。タイトル通り、13世紀から14世紀ごろの地中海沿岸のユダヤ教、イスラム教、キリスト教圏の音楽と詩情を、イベリア半島の文化混淆よろしく、一つに集めるという趣向。類似のアルバムはこれまでにもいろいろ聴いてきたけれど、この曲集は時代設定が古めな点と、演奏が明朗な印象を与える点がとりわけ特徴的。珍しい曲もいろいろ入っている。1曲目は今空爆被害で大変なレバノンに伝わるキリスト教の伝承曲(Kyrie eleison)、またコルトーナの素朴でどこか陽気な13世紀の賛美歌の数々、同じコルトーナものでもより悲壮感ただようもの(8曲目)。13世紀トルコのどこか叙情的な(?)詩歌、さらに珍しい12世紀のユダヤ教の伝承曲(keh Moshe)、セファルディ(イベリア・アフリカ系のユダヤ人)の伝承曲、アンダルシア楽派の伝承曲、そしてモンセラートの朱い本から「山に輝く星(Stella splendens in monte)」は歌の導入部となる器楽曲的アレンジが、山腹の修道院を想わせる渋い演奏。ライブだったらしく終わりに拍手が入っているけれど、一緒に拍手してもいいかも、と(笑)。

ジャケット絵は、有名なCatalan Atlas(1375年ごろ)。パリの国立図書館所蔵。シャルル5世が所望し、アラゴン王ペドロ4世を通じて依頼されたマジョルカ島のユダヤ人地図製作家アブラハム・クレスケスに作らせたものという。6枚綴りのヴェラムに描かれた地図は、最初の2枚が天体図やその記載などで、残り4枚が文字通りの地図なのだという。カタロニア地図について書かれたページはいろいろあるけれど、たとえば古地図をいろいろ眺めるならMedieval Mapsというページ、スペイン語だけれどカタロニア地図のページとか。

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投稿者 Masaki : 23:48