2006年10月29日

[書籍]ゴルトベルク

これはまたずいぶんと内容の充実した入門書。小沢純一『バッハ「ゴルトベルク変奏曲」--世界・音楽・メディア』(みすず書房)。みすずの「理想の教室」シリーズの一冊で、まずもって語り口の素晴らしさが眼をひく。架空の対話編(鼎談形式?)でもって、バッハの時代状況、当時の音楽の考え方、ゴルトベルク変奏曲の細やかな解説などを綴っていくという趣向。とくに時代状況などは中身としても詳しいし、対話編らしく話がいろいろに飛んだり拡がったりしていくさまが実に小気味よく、また味わいがある。普通の正攻法の入門書はいろいろあるけれど、こういう形での「読ませる」概説書はなかなかない(と思う)。このような本はもっとたくさんで出てほしいところ。

投稿者 Masaki : 15:37

2006年10月19日

バロックリュート

このところ、音楽を楽しんでいられる余裕のない日々が続いていたのだけれど、やっと少し落ち着いてきた。ちょうど師匠・水戸茂雄氏のリュート・リサイタルが開催されたので、とりあえずリハビリも兼ねて(笑)足を運ぶ。今回はオール・バロックリュート・プログラム。前半はゴーティエ(エヌモン&ドニ)とシャルル・ムートンの曲。うん、フレンチ・バロックはやっぱり、一見なかなか一筋縄ではいきそうにないような、音と情感のくねくねと移り変わるような流れが印象的。漫然と聞くにはちょっと複雑な流れ。曲の構造とかがわかると実に面白いのだとか。ま、そりゃそうだよね。ちょうど水戸氏は新譜『La rêveuse--夢見る人』(N&S Aavance, NSCD-54502)をリリースしたばかりで、フレンチ・バロックも一つの軸になっていることが窺える。一般にリュートのフレンチ・バロックものは録音も少ないし、もう少しいろいろなところでプロモーションされてもいいのでは、と思う。

後半はうってかわって、構成の明確なヴァイスの代表曲たち「シャコンヌ」と「異教徒」。この後者、従来は「不実な女」とかいう訳になっているけれど、師匠いわく、それではタイトルが意味不明になってしまうのだかとか。原題のinfidèleの一義的な意味(当時の)は確かに「異教徒」。学術的にも、「異教徒」が正しいのじゃ、という説が確かにあるのだそうで、再び師匠談によれば、実際、旋律の一部にイスラムのものの模倣があるのだとか。演奏は、これぞまさしく明晰さにあふれた、豊かな精神性を湛えたヴァイス。絵画を思わせる音の濃淡具合がまさに至芸だ。うーん、個人的にも、いつかヴァイスに接近したいと思いがさらに強くなった気がする(って、何年先の話になるかわからんけれど(笑))。

投稿者 Masaki : 01:07