2007年07月23日

ダンテ・クラブ

別に夏休みモードというわけでもないのだけれど(実は結構忙しくなってしまっていたりする)、ここのところ読んいたマシュー・パールの小説『ダンテ・クラブ』(鈴木恵訳、新潮文庫、上下)を読了。19世紀に実在したアメリカの文学者たちが、ダンテの『神曲』地獄編を模した連続殺人事件の探偵役になるという、なかなか味のある趣向のミステリー小説。彼らは『神曲』の翻訳クラブを作っていて、当時のプロテスタント系教会がダンテをどう見ていたかとか、アメリカの文学界がどう保守的だったかとか、南北戦争後の北部地域での黒人警官の描写とか、かなり詳細に調べて描かれている模様で、そういう部分だけでもなかなかに興味深い。それにしても、ミステリー小説だから仕方ないとはいえ、『神曲』の地獄編ばかりをクローズアップするのはちょっとなあ。煉獄編、天国編のほうが作品的・思想的な比重は相当に高いのに……。でもま、小説そのものは、意外なところから引っ張ってきた犯人像や、あからさまなミスリーディング、襲われる探偵役など、なんだかハリウッド映画的なサービス満載で、まあそれはそれで楽しめる。

そういえば探偵役の一人、詩人のロングフェローの屋敷には、ジョットが描いたダンテの肖像があることになっている。ジョットによるダンテの肖像といえば、有名なのは、フィレンツェはバルジェロ宮の礼拝堂にあるフレスコ画。ジョットが作者かどうかは異説もあるようだけれど……。

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投稿者 Masaki : 22:21

2007年03月27日

フォレット『大聖堂』

『ダ・ヴィンチ・コード』の余波らしく、昨年秋くらいまで書店で平積みだったケン・フォレットの『大聖堂』(矢野浩三郎訳、SB文庫)。原題は"The Pillars of the Earth"。90年代に一度新潮文庫で出ていたもの。いろいろと話は聞いていたのだれど、このたびようやく読み通す(いまさらなのだけど……笑)。きびきびと小気味よく展開するストーリーに、一気読みできてしまう。うーん、昨今のエンターテインメント小説ってこんな感じなのね。時は12世紀の南イングランド。ここに、若き修道院長と職を求めて彷徨っていた腕のいい建築職人が出会い、大聖堂の建造が始まる。ところがその建造には修道院長らの政敵たちもまた群がり、様々な策謀をめぐらしていく。職人の息子やら弟子、地元の前領主の娘らと今の悪徳領主などが入り乱れ、さて建立の行方はいかに……。とまあ、そういう波瀾万丈の35年間を描いた大河小説だ。登場人物は篤信から軽信まで様々。「地獄に堕ちるぞ」と怒りにまかせて叫ぶ聖職者、それをせせら笑いながら、後になって地獄行きかとびびりまくっている地元の有力者、取引すれば赦免してやると話を持ちかける司教などなど、また、後半の主人公になる弟子などは、ちょっとアナクロニズムを感じさせるほどの無神論者だったり、登場人物はどれも人間くさく描かれる。

で、なによりも当時の建築技術のディテールなどが素晴らしいし、当時隆盛を極めていく商業活動(先物取引の萌芽)、マリア信仰、サンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼、トレドなどのイスラム文化圏、フランス発のリブ・ヴォールトといった新建築様式&技法(シュジェールも登場)、カンタベリー大司教トマス・ベケットの暗殺事件などが、実に巧みにちりばめられていて、見事な技を見る思い。

投稿者 Masaki : 00:47