つねづね書物史の観点から古代末期・中世を論じたものを読みたいと思っているのだけれど、なかなか時間が取れなくて(と言い訳してみる)。そんな中、アンソニー・グラフトン&ミーガン・ウィリアムズの共著『キリスト教と書物の変容』(Grafton&Williams, "Christianity and the Tranformation of the Book", Belknap Press of Harvard University Press, 2006)をようやく読む。研究書ではあるのだけれど、かなり一般読者向きなのが好感を抱かせる。オリゲネス、パンフィロス、エウセビオスと続くギリシア教父たちが、いかに文献学的な関心を抱き、聖書の編纂作業などを通じて書物の変革(コーデックスの採用やインデックスの原型の成立)を導いたかを、当時彼らが活躍したカエサリアの社会状況なども踏まえつつ軽やかな語り口で論じていくというもの。オリゲネスのヘクサプラ(六表記での旧約聖書対照本)とエウセビオスの『教会史』を分析の中心に据えている。基本的スタンスは、まだかなりの少数派だった当時のキリスト教を擁護するための、論争での参照ツールとして、彼らは書物に独自の「レイアウト」を施し編纂を進めていったというもの。一方で、どこかそこには人間的な(というか)蒐集への熱情も見られたりもする。ツールとしての観点も重要だけれど、そうした背後で支えている動きとか、ツールを超えた影響力などのほうに個人的には関心がいく。少しそのあたりについて論じたものも探ってみたいところ。そういえばグラフトンについては最近邦訳で『カルダーノのコスモス』が出たけれど、脚注の歴史的研究などもあるようなので、ちょっと注目かも。また、ウィリアムズにはヒエロニムスを扱った同様の書物研究があって、これもちょっと見てみたいところ。
同書の表紙を飾っているのは、有名なアミアティヌス写本(ブリティッシュ・ミュージアム蔵、7世紀末から8世紀初頭)の挿絵。バビロン捕囚後にユダヤ律法を編纂した書記のエスドラスの姿を描いたものだけれど、これ、カッシオドルスの肖像画ではないかという話もあるようだ。