今年の「書物復権」でとりわけ気になったのが、ジルソン/べーナー『アウグスティヌスとトマス・アクィナス』(服部英次郎・藤本雄三訳、みすず書房、1981-2010)。ジルソンのビブリオグラフィーでこのタイトルのものは見あたらないなあ、と思っていたのだけれど、これ、なんと『キリスト教哲学』(1954)からの抄訳だった。なあんだ。でも、さっそく前半のアウグスティヌス部分を見ているのだけれど、なかなかに端的で面白い記述になっている。デカルトの「cogito ergo sum」のはるか先駆としてアウグスティヌスを挙げる論考をたまに見るけれど、これのソースがあっさりと判明(『自由意志論』、2.3.7)。さらには、「種子的原理」(rationes seminales)の話が『創世記注解』や『三位一体論』のどこにあるかとか、アウグスティヌスが形相の新しい発生をどうして否定することになるのかといった点なども端的に説明されていてよくわかる。うーむ、この本、個人的にはこれまでまったくスルーしていたけれど、とても有用なまとめの書という感じで気に入ってしまった。「書物復権」に改めて感謝。
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「ローマの遺産」
このところフェデリコ・ゼーリ『ローマの遺産 – <コンスタンティヌス凱旋門>を読む』(大橋喜之訳、八坂書房)を眺めている。美術史家ゼーリの講義録。見事な博学をおなじみ大橋氏の訳業で。これはなかなか贅沢な読書かもしれない(笑)。ローマにあるコンスタンティヌス凱旋門を読み解くという趣旨の講演は、まずもってその凱旋門そのものに至るまでに長大な迂回を経ていく。私たちが美術を見ていると信じつつ目にしていない様々な側面が、まずは次々に言及される。宮廷文化、軽視されてきた諸ジャンル、ビザンツ社会、イタリア絵画とオランダ絵画、修復と破壊の問題……。無色で残る古代や中世の彫刻が、当時にあっては豊かに彩色されていた事実、また近年の修復で蘇ったルネサンス絵画の色彩などをとってみても、私たちは作品を真の姿で捉えていないことは明らかだ、と。逆にそこから、そうしたすべてを総動員した美術へのアプローチが示唆される。で、いよいよ本題のコンスタンティヌス凱旋門へ……。
これがまた、トライアヌスやハドリアヌス、マルクス・アウレリウスなどの記念碑から取った部分をもち、さらにその首をすげ替えたりしている折衷的な建造物なのだとか。そうなると、なぜそんなことになっているのかとか、その建造物が造られた当時の社会状況、文化史的な意味合い、宗教的文脈など、いろいろな面が問題になってくる。時として、いわば底流・地下水脈のほうへと降りて行かなくてはならないわけだけれど、ゼーリの講義はそういう話を目くるめく伽藍のように配置しながら進んでいく。なかなか核心的な部分にたどり着かないのだけれど、このあたり、読み応えは十分。というわけで、重層的な解読の面白さを久々に堪能中。
新刊ウィッシュリスト番外編
今回のウィッシュリストは厳密には「新刊」じゃないかもしれないので番外編(笑)。なにしろ「書物復権」からなので……。
これも『天使はなぜ墜落するのか』が好調だという「八木雄二氏効果」の現れかしら(?)今年の「書物復権」にはいつになく中世ものが!
勁草書房からはジョン・マレンボンの二冊。『初期中世の哲学』(J.マレンボン著、中村治訳、勁草書房、1992)と、
『後期中世の哲学』(J.マレンボン著、加藤雅人訳、勁草書房、1989)。原著はそれぞれ1983年と87年に出たもの。マレンボン(Marenbon)というと、『ルートリッジ哲学史』第三巻中世哲学(“Medieval Philosophy: Routledge History of Philosophy Volume 3”)とかの編者。ほかにアベラールの概説書やボエティウスの概説書などもある。
みすず書房からは『アウグスティヌスとトマス・アクィナス』(E. ジルソン著、服部英次郎ほか訳、みすず書房、1998)。エティエンヌ・ジルソンものだけれど、原典はドイツ語のよう。
それからこれは中世ではないけれど、岩波書店からも興味深い一冊が復刊。『古代文字の解読』(高津春繁、関根正雄著、岩波書店、1964)。巨匠二人による、19世紀以降の文字の解読の歴史をたどるエッセイ本らしい。いいっすねえ、こういう復刊は大歓迎。
ラテン語会話
これはまだ取り上げていなかったと思うので、『テルマエ・ロマエ』関連ということで。国内で出ている「ラテン語会話」教本の筆頭(というか、ほぼ唯一のもの?)がこれ。『現代ラテン語会話 – カペラーヌス先生の楽しいラテン語会話教室』(有川貫太郎ほか編訳、大学書林、1993)。ドイツの会話教材の邦訳ということだけれど、これはすごい。個人的にはまだ真ん中あたりを彷徨いている感じなのだけれど、挨拶や簡単な受け答えなどから始まって、シチュエーションごとの例文がびっしり並び、巻末のほうでは時事問題レベルにまで達するというもの。いいっすね、これ。なかなか身につかないけれど、何度も読み返そうという気にさせてくれる。ある意味会話本の理想型に近いものが……(?)。
新刊ウィッシュリスト
またまた備忘のための新刊ウィッシュリスト。今月はなんといっても下旬に刊行予定の1万円越え本、『中世の哲学』(今道友信、岩波書店)が期待度ナンバーワン。同じく1万円越えということでは、
『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』(フランシス・イエイツ、前野佳彦訳、工作舎)も注目。いずれも現時点で予約受付中。
中世ものはほかに、「山川レクチャーズ」シリーズの6ということで、『中世ヨーロッパの教会と俗世』(フランツ・ヨーゼフ・フェルテン、甚野尚志訳、山川出版社)も予約受付中。このシリーズではピーター・ブラウン『古代から中世へ』が印象的だったっけ。中世史関連では、『フランス史1 中世 上』(ジュール・ミシュレ、大野一道監修、藤原書店)はミシュレの代表作。この1巻目はローマ帝国時代から13世紀までを活写とのこと。研究書としては
『中世後期ドイツの犯罪と刑罰』(池田利昭、北海道大学出版会)あたりは面白そう。副題が「ニュルンベルクの暴力紛争を中心に」となっていて、14、5世紀の年の秩序形成問題などを扱っている模様。より気楽な読み物としては、
『聖パトリックの煉獄 – 西洋中世奇譚集成』(マルクス、ヘンリクス、千葉敏之訳、講談社学術文庫)。西洋中世奇譚集成の三冊目。
古代ギリシア関係では、『プレソクラティクス』(エドワード・ハッセイ、日下部吉信訳、法政大学出版局)はぜひとも見たいところ。予約受付中のものでは、『ギリシア思想のオデュッセイア』(山形偉也、世界思想社)も期待できそうな予感。
ついでに洋書方面(のうち基本テキスト)も。最近相次いでアルベルトゥス・マグヌスの訳本が出ている。まずフランスのVrinからは対訳本で、『形而上学11巻、第2、第3論考』(”Métaphysique. Livre XI, traités II et III”)が出たし、イタリアのSismelからは、『預言についての問題』(“Questio de prophetia. Visione, immaginazione e dono profetico”)がこれまた対訳で出た模様。うん、すばらしい。
Vrinからはほかにもアル・ガザーリ『イスラムと無信仰を分かつもの』(”Le critère de distinction entre l’Islam et l’incroyance”)とか、フィチーノの『書簡集』(”Lettres”)、トマス・アクィナスの『霊的被造物について』(”Les créatures spirituelles”)などが新刊で出ている。Sismelは、偽セニスの小バルトロメウス『草木論』(”Tractatus de herbis (Ms London, British Library, Egerton 747″)も個人的には注目したいところ。さらにBrepolsからは、前に取り上げたピロポノスの『世界の永続について』希独対訳本の続刊(3巻から5巻)が6月刊の予定とか。これもとても楽しみ。