ゾラの短編集が凄い件

稀代のストーリーテラー!


 これまたKindle unlimitedですが、ゾラの短編集を読んでみました。え、ゾラに短編が?そうなんです。長編ばかりが有名なゾラですが、実は中短編も結構あるらしいのですね。そのうちの5編を邦訳した『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家』(国分俊宏訳、光文社古典新訳文庫、2015)は、副題にゾラ傑作短編集とあるように、どれも実に面白いんです!手頃な文庫での短編集はほぼこれのみとのこと。

 何が面白いかといえば、要はストーリーテラーとしての見事さです。複雑で屈折した登場人物、何かが起こりそうなサスペンス、そして考え抜かれたカタルシス。どの作品をとってもそういう部分が見事に組み合わされて、ぐいぐい引っ張っていきます。これは見事。

https://amzn.to/39wYLWW

 個人的な注目作は、表題作の1つ『呪われた家』。買い手のつかない荒れた屋敷で何があったのかが、三通りの話で語られます。もちろん、最後の話でもってそれ以前の話をひっくり返すというカタルシスが、ゾラ的には順当な読みではあるのでしょうけれど、これら三通りの話は、並列的に、どれが真実なのかわからないという感じでも読めてしまいます。するとここに、ゾラ的なストーリーテリングの妙味の謎が隠されているのでは、なんて気もしてきますね(妄想ですが(苦笑))。訳者の解説によると、この作品だけ、ドレフュス事件後の亡命先ロンドンで書かれたものとのことです。

 うん、ゾラの短編、ほかも探してみようかと思います。