基本的に映画は時間的・空間的な「移動」が基本だと思っていましたが、だんだんと年をとるにつれて、「動かない」映画、空間的移動が描かれない映画も、案外悪くないなと思うようになってきました。シネフィルを気取っていた若いころなどは、「こんなに動きがない映画なら、映画にする意味ないじゃん、戯曲でいいじゃん」なんて思っていたんですけどね(苦笑)。観劇に行かなくなって久しく、演劇作品に触れる機会があまりなくなっていることもあって、戯曲作品も映画にしてもらうことは、とてもありがたい気がします。もっとも、映画も最近はほとんど配信で観ているわけなんですけどね。
というわけで、先日アマゾンでの配信終了の告知を見かけて、あわてて観たのが『ザ・ホエール』(ダーロン・アロノフスキー監督、2022)。長いこと映画の世界から遠ざかっていたブレンダン・フレイザーの復帰作ですね(今劇場公開中の『レンタル・ファミリー』も評判いいですね)。娘役に、『ストレンジャー・シングス』のマックス役で人気が出た、セイディ・シンクも出ていました。
https://www.imdb.com/title/tt13833688/

大学のオンライン授業の講師をつとめる、極度の肥満症に陥った主人公の、人生最後の一週間が描かれます。舞台はその主人公の部屋で、ほとんど外の描写はないのですが、部屋を訪れる関係者たちとのセリフのやり取りで、そこにいたる背景やそれぞれの過去などが、とても巧みに浮かび上がって来ます。まさにそういう「見えている以外の部分」への想像というあたりが、戯曲的な映画の愉しみであると、改めて納得できます。
これは以前に観た一本ですが、『対峙』(フラン・クランツ監督、2021)というのもありました。高校で起きた乱射事件の犯人と被害者の、それぞれの親が、教会の一室で話をするという作品で、冒頭からすでにして張り詰めた緊迫感を感じさせます。
https://www.imdb.com/title/tt11389748/

舞台設定(教会での対話とか)などから、観ている側は、どこかの時点で許しの時を迎えるのだろうなと予測するわけなのですが、なかなかそうした予定調和にはたどり着きません。それほどに凄惨な事件だったことが伺えます。これも、事件そのものが描かれるわけではないので、観る側の想像力を刺激し促すだけかのですが、そのあたりの緊張感こそが見どころという感じです。
さらに、最近観た『入国審査』(アレハンドロ・ロハス監督、2023)も、この分類に含めてもよいかもしれません。
https://www.imdb.com/title/tt22964884/

スペインからアメリカへ移住しにきた若いカップルが、入国審査で足止めを食らうことで、二人の関係性に変化が生じてしまう、というものですが、密室会話劇(入国審査の尋問)が作品の大きな比重を占めているからです。これもまた、画面に描かれない背景への喚起力がなかなか鮮烈です。文章ならば行間を読むとか言われますけど、映像がさりげなく指し示す外側部分というのも、ときにとても味わい深かったりしますね。