オリヴィの論と平行して、メディアヴィラのリカルドゥスによる悪(悪魔)についての論も読み始めた。ものは『討論問題集』の問題23から31、底本とするのは羅仏対訳・校注本の第4巻(Richard de Mediavilla, Questions disputées: Tome IV, Questions 23-31, Les Demons (Bibliotheque Scolastique), Paris, Les Belles Lettres, 2011)。オリヴィによる悪の定義が、たんなる善の否定にとどまらず、存在論的な実体としてあることを謳っていたのとは対照的に、リカルドゥスはアンセルムス以来の「善の不在・欠如」としての悪を、とことん突き詰める方向へと向かうようだ。冒頭の問題23では、まずその善に不在・欠如としての悪の事例として、自然の法に従わないことによる生成力・形成力が怪物を生む、といった例が出されている(第1項)。次いで天使の堕落(最初の罪)もまた、存在そのものの善性と不整合であるという意味で不在・欠如をなしていると解釈される(第2項)。
そちらも同じ叢書から校注・対訳本が出ている。アラン・ブーロー校注・訳のペトルス・ヨハネス・オリヴィ『悪魔論ーースンマ第二巻問題40から48』(Pierre de Jean Olivi, Traité des démons: Summa, II Questions 40-48 (Bibliothèque scolastique), éd. Alain Boureau, Paris, Les Belles Lettres, 2011)がそれ。概要を記した同書の序文によれば、オリヴィの論の特徴は、(1)アンセルムス的な、悪の存在論的不在を否定し、(2)悪を自由のもう一つの面であると規定し(スコトゥスの先駆)、(3)悪魔の失墜を終末論的図式から解釈して人間による未来の行為の可能性を開き、(4)理性をもった被造物(人間、天使、悪魔)を、地位として近く、変動的な存在と位置づけていることにあるという。
かなり前にダウンロードしたベンジャミン・ポール・ウィンター「ボナヴェントゥラによる六つの反・世界永劫論の哲学的・神学的分析」(Benjamin Paul Winter, A Philosophical and Theological Analysis of Bonaventure’s Six Arguments against the Eternity of the World, Villanova University, 2014)(修論のようだが、あれれ、これは現在ダウンロード不可?)にざっと眼を通す。ボナヴェントゥラはアリストテレスの議論を踏まえつつも、その「世界永劫論」に対しては否定的なスタンスを取っていた。けれどもそれはトマス・アクィナスなどの議論とは大きく異なっている……。というわけで、同論考はそのあたりを具体的に見ていこうとし、結果的にまとめとして有益な論考になっている。ボナヴェントゥラが展開した議論は6つ(ペトルス・ロンバルドゥスの『命題集』への注解として論じている)。(1)無限には別要素を加えることができない。(2)無限の数は秩序づけることができない。(3)無限であるものを横断することはできない。(4)有限の能力によって無限を掌握することはできない。(5)無限数の事物が同時に存在することはありえない。(6)無から有になったものが、永遠の存在を得ることはありえない。論文著者はこのうち(1)から(3)を数学的・哲学的議論、残りを神学的議論(無からの創造の教義に関わるもの)と区分している。