モダンな実在論

実在論と知識の自然化: 自然種の一般理論とその応用これまた実在論の復権がらみだけれど、植原亮『実在論と知識の自然化: 自然種の一般理論とその応用』(勁草書房、2013)を読んでみた。英語圏の比較的近年の実在論を下敷きにしているせいか、とても理路整然とした面持ちながら、それでいて面白い議論を展開している。近代においてはロックなどに代表されるという自然種論(種というものが実在し、それに合わせて人間が概念的カテゴリーを得ようとする、と考える立場)だけれど、ロックが考えていたような実在的本質を核とする考え方は今やあまりに粗いとされ、とても通用しえなくなっている。で、同書はまずもってこれを現代的に精緻化しようと試みている。基本的見取り図は次のようなものだ。自然種を特徴づける条件として、同書は「恒常的性質群」「帰納的一般化」「基底的メカニズム」の三つが提唱している(これはボイドという論者がベースになっているのだそうで、いずれも相互に密接に関連しているようだ)。その上で、これらを生物種、人工物に適用してみるという形である種の「思考実験」を行い、さらには人間が獲得する自然的知識にまで応用してみせる。上の三条件は種の実在を基礎づけるきわめてモダンな概念といえそうで、たとえばそれは、生物種などに見られる一種の境界事例、つまり分類のきわめて曖昧な部分(中間種など)をも説明づけうる議論を導くことができるとされる。

個人的にはとりわけ人工物への応用が印象的。そこでは基底的メカニズムに相当するものとして「複製プロセス」(もとはエルダーが提唱)が取り上げられている。なにやらシモンドンあたりの個体化議論などに結びつけられそうな感じではある。いずれにしても、そこでもまた境界事例的な対象などもそれなりにうまく捌けているようで、そうした部分への目配せがなんとも興味深い。そして最後の知識の問題になると、著者はこれもまた一種の人工物と見なすことができるとし、さらには多様性の面などで生物種と一部オーバーラップする部分もあることを指摘してみせる。前に見たアームストロングの議論などもそうだけれど、今や実在論・唯名論(この書では規約主義と称されている)のいずれを取るにせよ、その基礎付けとして科学的な諸概念が欠かせないことが改めて示される。もはや素朴な自然主義などありえない(……のかな、本当に?)。こうした実在論を突き詰めていく先には、一元論的な世界が控えているように思われる(生物種にしても、それを知識としての人工物と見なしうるのであれば、汎人工物論のような形で一般化されうるかもしれない……)。一方で、科学の進展にともなって種概念の在り方がどこかで大きく切り替わるような場合(そんなことがないとも限らない)、それにともなって生物種などの種概念、あるいはその知識としての在り方などにも変更が加えられることになるわけで、その一元論的な汎人工物論は、なにやらとてもゆるやかな、あるいはしなやかな総体・世界観を形作っていきそうだ。