SFの黎明から現在へ

(bib.deltographos.com 2023/11/28)

「食客」に続いて、ルキアノスの代表作とされる「ほんとうの話」を読了したところです。例によってLoeb版(第一巻)です。

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これ、いわゆるSFの嚆矢とも言われているものなのですね。基本的には奇想天外な「馬鹿話」(褒め言葉です)で、若者たちがヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)を超えて進んでいく、空想的な航海記です。なんと突風で船ごと飛ばされて月まで行っちゃうんですよね。そこでは月世界と太陽世界が戦争をおっぱじめて、彼らも巻き込まれてしまいます。

結局太陽側が勝利して、彼らはその後どうにか海上に戻るのですが、今度は巨大な海獣(鯨?)に飲み込まれてしまいます。そこには陸地とかが出来ていて、いろいろな種族(半魚人とか)が住んでいる、というのです。このあたり、古くはピノキオ、より新しいのならアニメですが『マインドゲーム』などを思い出します。というか、一種の地獄めぐりのような感じですね。

海獣の死に乗じてそこを脱出した後、一転して今度は天国のようなところを旅します。ホメロス以下の著名な故人たちに会うのですね。さらにその後も、イマジネーション豊かに描かれる様々な島をめぐり(さながら煉獄編のようです)、危機を脱しながら、最終的には対蹠地の世界、地球の裏側の世界に到達したところで、物語はいったん終わります(「待て次巻」という含みまで記されています)。

こうしてみると、確かに航海記というのは、今ならばSFというジャンルにつながる基本的なフレームなのだなということがよくわかります。その意味で、これが嚆矢とされるのもさもありなんと思えます。そこにどれだけの馬鹿話、荒唐無稽なめくるめくイメージの数々を注ぎこめるかが、作品の是非を決めていくのでしょう。

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ちょうどこれと平行して、リウ・ツーシン(劉慈欣)の『三体』第二部「黒暗森林」を読んでいたのですが、これなどはまさにそうした、ある種の壮大な馬鹿話の集成にもなっていました。

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第一部は以前、英語版で読んだのですが、個人的には、ちょっとバッドエンディングっぽいギリギリのところで締めくくられた第一部のほうが好きなのですが、この第二部は、途中に中だるみはあるものの、「そうくるか」という終盤の劇的な展開とその華麗な終着点、伏線回収の妙で、また別の味わいをもたらしてくれますね。

勝手に想像させていただくと、ルキアノスの架空の航海記を同時代的に読んでいた読者たちは、私たちがこの『三体』に感じるような面白さに似たものを感じていたのかしら、などと思ってみたくもなりますね。