時間表現へのアプローチ

時間の言語学: メタファーから読みとく (ちくま新書1246)空き時間にKindleで読んでいた瀬戸賢一『時間の言語学: メタファーから読みとく (ちくま新書1246)』(筑摩書房、2017)。これが小粒ながらぴりりと辛い山椒のような一冊で、とても好感をもった。著者はレトリック研究を主に手がけてきた言語学者・英語学者。日本語表現を中心に、さらには英語表現などをも普遍的に捉え、時間の表象がどのようになされているかという問題を扱っている。内容的に大きなポイントとなるのは二つ。一つは時間の「流れ」の表象・メタファーについて。時間が流れるという場合の、未来から過去へと流れこんでくる方向性と、人間が時間の中を進んでいく場合の、過去から未来へと進んでいく方向性の二つを浮かび上がらせ、それらの織りなしが問題とするなど、認識論的に大変面白い問題を投げかけている。もう一つは、「時は金なり」という、ある意味資本主義を反映・下支えしているメタファーへの批判。資本主義がある意味行き詰まりを予感させる昨今において、これからの世界に必要なのは、それに変わる別のメタファーではないか、として興味深い提案を示している。メタファー研究から投げかけられる、新たな認識的転回の提言。こういう、ある意味地味なところから大きな展望が開かれるという、その様がなんとも素晴らしい。良書。