最近出たミシェル・パストゥロー『ヨーロッパ中世象徴史』(篠田勝英訳、白水社)を読み始める。とりあえず約三分の一。歴史研究の基本姿勢を説く序章から飛ばしている感じ。イシドルスとか中世の文献に出てくる語源や言葉の解説はかなり独特なもの。民間語源といって割り切れるものではない。パストゥローいわく、「歴史家はそのような「偽の」語源論を決して揶揄してはならない」「中世の象徴体系の研究はつねに語彙の研究から始めなければならない」。例として挙げられているのが、騎士道物語で騎馬試合の勝者への賞品にカワカマスが選ばれるのは、名前ゆえなのであって、精神分析的なアプローチなどとは無縁の産物なのだ、という話など。名前のアプローチがあればそういう誤謬は避けられる、と。そういえば先のクルティーヌにしても、中世を論じる時のアガンベンにしても、言葉の検証から始めている。やはりそれは王道。
それにしてもこの本、パストゥローのこれまでの著作とか研究とかのエッセンスをまとめ上げたような感じで、総覧できる。ある意味でお買い得かも(笑)。豚の裁判、ライオンの象徴史、イノシシ狩り、マチエールとしての木、百合形文様の概論、色彩論などなど。とりわけ第4章の「木の力」が、個人的には一種の物質論・配置(dispositio)論という感じで興味深い。技術史と素材論と象徴的変容との錯綜を垣間見る思いだ。これはもっと深めたものを読みたい。