届いたばかりの書籍をさっそく眺める。エーリック・アールツ『中世ヨーロッパの医療と貨幣危機』(藤井美男監訳、九州大学出版会)。うーむ、100ページ足らずで値段は結構するが(論文3本収録という感じ)、それでもまあ参考になる内容なのでまあいいか……(若干苦しいけれど)。こういう感じの出版形態は今後増えていくのかしら……。ま、それはともかく、とりあえず15世紀のブラバントでの医療状況についてまとめられている第一章を読む。1430年に若くして急死したブラバント公のフィリップ・ド・サン・ポールについて、その検死に関する史料を検討しつつ、当時の医療体制について記していくというもの。当時はすでに、南ネーデルランドに医療ギルドができていて、それ以前には卑しい職業とされた外科医の社会的地位が上がってきているのだという。その若きブラバント公にはどうやら胃に潰瘍かなにかがあったらしいのだけれど、その内科的な処方は総財務府の会計簿からわかるという。当時のはやはり「漢方」という感じ。また死後の防腐処理のくだりも興味深い。古代のミイラ化などの技術は完全に失われていて、結局は内臓を抜き取り、香草を詰めたり包んだりして塩を振りまくだけ……。ちょっと血なまぐさいが(苦笑)、バラして別々に埋葬なんてやり方もあったという(ドイツ方式)。うーむ、こういう記述だけ読んでいると、遺体への配慮という点ではなんだかなあと違和感しきりなのだが、そうした方途を支えている考え方、広い意味での「思想」がどんなものだったのか、やはり気になってくる……。