未知との遭遇のための意思疎通

ちょっと遅ればせの話だが、フランスのクオリティ・ペーパー『ル・モンド・ディプロマティック』の8月号は例年、ちょっと面白い夏休み記事を掲載する。今年のそれはフィン・ブラントン「地球外生命体とのミニ会話ガイド」だった。中国が世界最大級の電波望遠鏡の建造を終えた話に絡めて、まったく未知の知的生命体がいたとして人はどうコミュニケーションを取るかという話を再考し、19世紀の史的な試みを紹介している。どこかの星に宇宙船が不時着したとして、最初のコンタクトを取る段階では、環境にある素材で基本的な幾何学図形をつくり、光による信号を発してみるというのが基本だというが、ではより高度な内容を伝えるにはどうすればよいか。この問題は歴史的にも、太陽系の構成などがわかり、他の星も地球と同じようなものかもしれないと考えられるようになって以来(つまり他の知的生命体がどこかにいると考えられるようになってから)の問題なのだという。著者はこれを情報工学史の裏側として取り上げている。

まず初期コンタクトの問題に、巨大なヘリオスタット(いわゆる集光ミラー)を用いて宇宙空間にまで反射光を送出するというアイデアを出した人物がいた。19世紀のドイツの数学者・天文学者、ガウスだ。当時はほかにも、サハラ砂漠で巨大な穴をほって軽油で満たし、火を点ければ火星人から見られるといった荒唐無稽なアイデアが多数生まれたという。フランス、英国、ロシアなどの科学者がそういったアイデアに名を連ねている、と。けれどもそれらはあくまでファーストコンタクトの段階の発想。とにかくハード面が重要だという立場だ。さらに進んだ信号を送るためには、そのコード化が必要になる。つまりソフト面だ。その嚆矢ではと目される一人が、なんと19世紀フランスの詩人シャルル・クロスだという。今や有名とはいえないこの詩人、実は三色版法(カラー写真)やフォノグラフの初期形態の考案者でもあったという。

で、そのクロスは、ガウスなどが提唱し注目されていたその光信号の発信装置でもって、リズムパターンをもった光を送ることでたとえば数字を伝えることができると考えた。しかも二進法で煩雑に送ることにとどまらず、メッセージ内容の圧縮のアイデアすら出しているのだという。それができれば画像すら送れる、とクロスは考えていた、と。まさに情報工学の黎明だが、一方でそこには着想源もあって(それを挙げないのはフェアではない)、それはジャカール(ジャカード)織機だった(いわばパンチカード式のコンピュータの原型にあたるもの)という。詩と技術と科学の発想とが渾然一体になり、そこからこうして黎明的な技法が捻出されていく。ここに科学史的な醍醐味を見ずにどうするのか、という感じではある。記事はさらに、ランスロット・ホグベンの別様のコード化による簡単な数式を送出するアイデアや、20世紀のハンス・フロイデンタールの記号法などが紹介されている。でも個人的にとても惹かれるのはこのクロスだったりする。2010年刊の全集などもあるようだし、ちょっとその著作を覗いてみたいところ。