「ローマの遺産」

このところフェデリコ・ゼーリ『ローマの遺産 – <コンスタンティヌス凱旋門>を読む』(大橋喜之訳、八坂書房)を眺めている。美術史家ゼーリの講義録。見事な博学をおなじみ大橋氏の訳業で。これはなかなか贅沢な読書かもしれない(笑)。ローマにあるコンスタンティヌス凱旋門を読み解くという趣旨の講演は、まずもってその凱旋門そのものに至るまでに長大な迂回を経ていく。私たちが美術を見ていると信じつつ目にしていない様々な側面が、まずは次々に言及される。宮廷文化、軽視されてきた諸ジャンル、ビザンツ社会、イタリア絵画とオランダ絵画、修復と破壊の問題……。無色で残る古代や中世の彫刻が、当時にあっては豊かに彩色されていた事実、また近年の修復で蘇ったルネサンス絵画の色彩などをとってみても、私たちは作品を真の姿で捉えていないことは明らかだ、と。逆にそこから、そうしたすべてを総動員した美術へのアプローチが示唆される。で、いよいよ本題のコンスタンティヌス凱旋門へ……。

これがまた、トライアヌスやハドリアヌス、マルクス・アウレリウスなどの記念碑から取った部分をもち、さらにその首をすげ替えたりしている折衷的な建造物なのだとか。そうなると、なぜそんなことになっているのかとか、その建造物が造られた当時の社会状況、文化史的な意味合い、宗教的文脈など、いろいろな面が問題になってくる。時として、いわば底流・地下水脈のほうへと降りて行かなくてはならないわけだけれど、ゼーリの講義はそういう話を目くるめく伽藍のように配置しながら進んでいく。なかなか核心的な部分にたどり着かないのだけれど、このあたり、読み応えは十分。というわけで、重層的な解読の面白さを久々に堪能中。