ケネス・シースキンという人の『マイモニデスによる世界の起源』(Kenneth Seeskinm, “Maimonides on the Origin of the World”, Cambridge, 2005)を読み始める。マイモニデスのコスモロジー系の話なのだけれど、基本的には概説書という感じ。長さも200ページちょいだし。 創造神、『ティマイオス』、アリストテレスの世界の永続性、プロティノスなど、創成神話の諸テーマをめぐりながら、マイモニデスのスタンスをそれらとつき合わせて確認・整理するというもので、マイモニデスの合理主義的な立場がいかにそれらのテーマを批判しているかに重点が置かれているように思える。うーむ、正面切ってのマイモニデスのコスモゴニー思想を論じるというのを期待していたので、少し違う感じも(苦笑)。とはいうものの、全体的な整理としてはなかなか有益かもしれないなあ、と気を取り直してもう少し読み進めようかと思っているところ。
『ピカトリクス』だけを眺めているのもナンなので(苦笑)、魔術関連の参考書も併読しようと思い、以前に届いていたヴェスコヴィニ『魔術的中世』(Graziella Federici Vescovini, “Medioevo magico – La magia tra religione e scienza nei secoli XIII e XIV”, Utet Libreria, 2008)も開いてみる。400ページ超の本で、様々な著作や思想を取り上げている一冊のようだけれど、とりあえず第一章30ページにざっと目を通す。語り起こしとして言及されているのはアルキンディ。なるほど、西欧中世の魔術関係の文献は、9世紀アラブ世界のアルキンディから始まるというわけか。たとえばその『視覚論』は翻訳を通じて広まり、ロジャー・ベーコンやアルベルトゥス・マグヌスの引用するところとなる、と。さらに『第五元素論』やら『光線論』などを通じて、その後の「魔術」プロパーのテーマ系が出そろい、とりわけルネサンス以後に影響を強めていくことになるようだけれど、中世ではまだ個々のテーマが散発的に取り込まれたりする程度の印象を受ける(ホントか?)。章の後半では9世紀から12世紀にかけてヘルメス主義的な占星術・魔術の伝統ということで、『ピカトリクス』を初めとする代表的な文書が紹介されている。いろいろあるねえ。そのあたりも興味深いのだけれど、なによりもまずはアルキンディの文書をちょっと読んでみたいところだ。
異教的要素の受容という点には、このところ個人的にも関心が高まっている。で、そんなわけで中世の占星術的魔術書といわれる『ピカトリクス』の仏訳本(“Picatrix – Un traité de magie médiéval”, trad. B. Bakhouche et al., Brepolis, 2003)を読もうと思っているところ。まずは訳者らによる序文にざっと眼を通すが、すでにして興味をそそられる。『ピカトリクス』はむしろルネサンス期にもてはやされた書だけれど、ラテン語版が成立したのは1256年とか。逸名著者によるアラビア語のテキスト(Ghâyat Al-Hakîm:『賢者の目標』)がスペイン語に訳されて、そこからラテン語が作られたのだという。いずれの訳者も不明で、二度の翻訳を挟んでいるせいか、もとのアラビア語版とはかなりの違いが出ているらしい(仏訳本はラテン語ベース)。すでにして翻訳の問題が絡んでくるわけか。内容的には魔術の理論面を扱うものらしく、術を行うものが高い教養(哲学的な)をもっていないければならないという倫理的スタンスが強調されるという。また、術に関係する占星術・天文学的知見はプトレマイオスに準拠しているようだ。