「古楽 – バロック以降」カテゴリーアーカイブ

「バイロイトの宮廷」

世間的には今日まで三連休。というわけで、ウィルコムの電話機に翻弄された感のあるこの三日をしめくくるべく(?)、ミゲル・イスラエルのリュートのCDを堪能する。『Lute Classical/The Court Of Bayreuth-lute Music Of J.b.hagen Falckenhagen Etc: Yisrael』。廉価版ながら、なんとも詩情あふれる宝石のような音。うーむ、リュート音楽の醍醐味というか神髄に迫るものがある(と思う)。演奏しているミゲル・イスラエルという人は、前にやはり廉価版で『神秘のバリカード』なるCD(これもなかなか素晴らしかった)を出していたミゲル・セルドゥーラと、なんと同一人物!現在は母方の姓を名乗っているのだとか。なるほど。で、今回は「バイロイトの宮廷」というタイトルで、18世紀のドイツのリュート奏者・作曲家ハーゲン、ファルケンハーゲン、シャイドラーを取り上げている。いずれも、ヴィルヘルミーネ・フォン・プロイセンの庇護を受けた奏者たち。ヴィルヘルミーネはフリードリヒ一世の長女で、つまりはフリードリヒ大王(二世)の妹。ヴェルサイユを模してバイロイトの宮廷を作り替えた人物で、みずからもヴァイスにリュートを習っていたのだとか。最初はフランスで発展したバロックリュートは、その後ドイツで独自展開を果たすわけだけれど、うん、やはりハーゲンやファルケンハーゲンのソナタはフランスものとはまた違った味わいで洗練されている。それを情感たっぷりに奏でるミゲル・イスラエル。これはもう文句なしの拍手もの。

無伴奏チェロ組曲

古楽演奏のグループ、レッドプリーストが以前来日講演をしたとき、チェリストのアンジェラ・イーストが無伴奏チェロ組曲(どれだったか忘れたけれど)のソロを聴かせてくれた。それがまた、何やら妙にリズミカルなバッハだったように思え、ソロアルバムが聴きたいなあと思ったものだった。で、なんとそれが少し前に出ているでないの(笑)。『Bach: the Cello Suites』。というわけで、早速購入し聴いてみる……。が、ところどころ爆走したりいろいろ即興的に動いたり、独特な溜めを入れたりはしているけれど、総じて「普通」な印象の演奏。レッドプリーストに参加しているときのノリとはだいぶ違う。ま、そりゃそうか。バッハで無茶するのはナシだよなあ、やっぱり。とはいえ、もっと強烈・個性的な演奏を期待したりしていたので、ちょっと意外だった(笑)。無伴奏チェロ組曲はそんなにいろいろ聴いているわけではないけれど、Naxosライブラリとかにあるフェーベ・カライのものとか、個人的には結構いいなと思ったり……。

カール・ニューリン

個人的にはちょっと知らなかったのだけれど、新譜CDが入手困難マークになっていたせいか(苦笑)、俄然注目してしまったリュート奏者が、カール・ニューリン。ところがこれ、なんだiTunesのストアにちゃんと入っているでないの……(脱力)。『Kellner & Weiss – Works For Lute』というアルバム。スウェーデンの奏者だそうで、まだ30代の若手。演奏はというと、若手なせいか、いい意味でも悪い意味でも(普通に演奏のお手本になりそうなという意味で)模範演奏タイプ?なんだかあまりに直球すぎて、アルバム全体としては単調な感じもするけれど、たぶん今後いろいろ面白くなっていきそうな感触もないわけではない……かしら。今回のアルバム、内容は表題の通り、ちょうど同時代を生きたケルナーとヴァイスの曲を集めたもの。ソナタ ト短調とカプリッチョ ニ長調がヴァイスで、あとはケルナー。

この人、YouTubeではジョン・ジョンソンの曲を弾いている。なるほど、ルネサンス曲の方が生き生きとしている印象かも。

天地創造ミサ

例によってこのところあまり時間が取れない。そんな中、ハイドン/ガッティ『天地創造ミサ』(”Schöpfungsmessen – Lugi Gatti – Joseph Haydn”, Carus, 83.245)を聴く。ルイジ・ガッティとハイドンそれぞれの「天地創造ミサ」を収録。前者の作曲家はよく知らないのだけれど、ハイドンとほぼ同時代人らしい。ハイドンからの旋律を引用というか借用というかしているというので、これは「天地創造ミサ」と称されるらしいのだが、ハイドンのほうも、これは自作の「オラトリオ・天地創造」からの一節がグロリアに流用されたことで「天地創造ミサ」と言われているのだそうな。個人的には、華やかだけれどちょっと脳天気な感じもしないでもないガッティに対して、そういう部分を抑え気味にして深みの要素を加えたハイドン、というような対比になっている気がする……(ホントか?)。いずれにしても、この時代の特徴だというトランペットの使用がなかなかに面白い効果を出している感じで興味深い。演奏はドレスデン聖十字合唱団+ドレスデン・フィルハーモニー、指揮はローデリヒ・クライレ。去年のハイドンイヤーに出た一枚。

今年のロバート・バルト

今年も出ていたロバート・バルト(リュート走者)のヴァイス録音「リュートソナタ集」。もう10巻目になるのか〜。S.L.Weiss: Lute Sonatas Vol.10。今回はジャケット絵が従来のリュート奏者を描いたものではなく、帆船の絵(ピーター・モナミーの作品)。で、この絵の趣向が変わったのに合わせてか(?)、内容も少しこれまでとトーンが違うような……。従来の実に求道的な、ひたすら深く沈潜していくかのような重厚な音づくりではなく、何かその先にいきなり明るい開けた空間が現れたかのような印象。もちろん収録曲が長調なので(ソナタ28番ヘ長調「名だたる海賊」(上の帆船の絵はこれに関連してということか)、ソナタ40番ハ長調)、そのせいも若干あるだろうけれど、それにしてもどこか突きつけた明朗さを感じさせる。その後に入っているもう一曲、「ロジー伯の死を悼むトンボー」も、以前のようなただひたすら重厚な感じとは違っている。少し路線が変わってきたのかしらね。でも確かなタッチやたたみかけるような音は以前のままで、この新路線は個人的にもなにやらとてもいい感じだったりする(笑)。今後にも大いに期待。