2008年10月20日

[古楽] リュート音楽で欧州紀行

この見出しのコンセプトによる、リュートの師匠こと水戸茂雄氏の新作CDが出ている(とは言うものの、ご本人から直接購入させていただいたもので、店頭販売はまだかな?目白のギタルラ社(東京古典楽器センター)あたりにはすでに並んでいるかもしれないけれど)。『リュート音楽によるヨーロッパ巡り Part I - ルネサンス時代』(wasabi wsbcd-2002)。ルネサンスリュートというとダウランドばっかりという既成概念をこれで破壊しましょう(大笑)。本当に渋いのはむしろ大陸ものだということが、この端正な演奏からよくわかるというもの。珍しいドイツもの(タブラチュアも特殊)のほかフランスもの、そして白眉のスペインもの(ビウエラ演奏)はミラン以下まさに黄金時代の7人衆、さらにイタリアものは、ダ・ミラノのほか、ガリレオの父親ヴィンチェンツォ・ガリレイのリュート曲がむちゃくちゃ渋い。今後バロックリュート編も予定しているという話なので、そちらも大いに期待。*ちなみに水戸氏は今週水曜にリサイタルが新大久保のルーテル教会で22日7時から。

ジャケット絵はヨーロッパ地図だが、これはよくみたら有名な「オルテリウスの世界図」からヨーロッパ部分を拡大したもののよう。1570年刊行の『地球の舞台』と題される地図帳の巻頭部分。その全体図を挙げておこう。

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投稿者 Masaki : 23:36

2008年07月06日

[古楽] エスタンピ

この数日はめちゃ暑い。さっそくいろいろ暑気払いが必要に。個人的には古楽も結構利く(笑)。というわけで、ジョルディ・サヴァール&エスペリオンXXIの新譜を。『エスタンピ&ダンス・ロワイヤル』(Alia Vox、AV9857)。おー、久々に中世もので来たねえ。パリにある国立図書館所蔵の「王の写本」(ff.844)(14世紀初頭ごろ)から、器楽用の連番つき「エスタンピ」(舞曲の一種)全曲を、それより時代の早いトルバドゥールらの音楽と合わせて録音したという一枚。演奏はこれまた快活。相変わらずサヴァールの天才的な発想でもって、ネウマ譜のメロディラインだけのものを豊かなパフォーマンスに仕上げていて見事。13世紀末から14世紀はじめごろに、おそらくは実際に演奏されていたであろうメロディ。ってことはブラバンのシゲルスとか、そのあたりが耳にしていた可能性もあるわけで、そう考えるとなんだかいっそうワクワクする(苦笑)。

そのパリにある写本の一部の画像を挙げておこう。騎士らしい人物像が描かれている。

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投稿者 Masaki : 22:42

2008年06月02日

[古楽] ロマリア

前2作で珠玉の「泣ける」ダウランド演奏を聴かせてくれたジョン・ポッター&ダウランド・プロジェクト。で、今年2月リリースの新作はなんと中世もの。『ロマリア』(ECM 1970)がそれ。全編にわたって大陸的な哀愁がこれでもかと繰り出される。本来は陽気な舞曲(7曲目とか)っぽいものまで、実にメランコリックな処理。唖然とするというか、圧倒されてしまう。収録曲は13世紀ごろの写本の数々(カルミナ・ブラーナとか)、インプロビゼージョン、さらにグレゴリオ聖歌やラッスス、ジョスカン・デプレなどを配している。これ、楽しみ方はいろいろだけれど、たとえば『エル・シードの歌』(長南実訳、岩波文庫)あたりを読みながら、これをBGMでかけるというのが個人的にはお薦めかも(笑)。エル・シードといえば、スペイン最古の武勲詩。謀略で国を追われるエル・シードたちの出国のシーン(第一歌)は、まさにこのメロウな旋律がとてもよくあうかも。

投稿者 Masaki : 20:29

2008年05月20日

[古楽] アッコルドーネ来日公演

昨晩はマルコ・ビーズリー(テノール)率いるアッコルドーネの公演に行く。2004年に一度「東京の夏」音楽祭の枠で来日したんだっけね。前回はビズリー、アコルドネと長音にしない表記だった(笑)し、どちらかといえばピノ・デ・ヴィットリオの存在感が目立った(キタラ・バテンテの弾き語りとか)感じがあったけれど、今回はヴォーカルはビーズリー1人の独壇場。今回は二種類の公演内容で来日。聴いたのはそのうちの「恋人たちのイタリア」というプログラム。全体としては、ディレクター兼チェンバロ、オルガン奏者のグイード・モリーニの「アレンジ古楽」が炸裂(笑)。どうもこの手のアレンジものは、とくに最近、個人的にはあまりピンとくるものがないのだけれど、まあ久々なのでよしとしよう……とはいえカッチーニはともかく、前半のモンテヴェルディの曲はちょっとのけぞる思いだったり(汗)。

ビーズリーの歌唱は、あまり声楽っぽくないどちらかというとトラッドフォーク的な歌い方。けれどその声量と響き方はちょっと他にないような独特な感じ。今回のプログラムでは後半に少し宗教曲(グレゴリオ聖歌、モンテヴェルディの「倫理的・酒興的な森」からの1曲)を入れて幅の広さをアピールしていたけれど、やはりこの声の質に一番ぴったりくるのは伝承曲(ようするに民謡)という気がする。後半のさらに後半は、イスキテッラ、タランテッラ、ナポリの伝承曲、リグーリアの結婚曲などが続き、これはもう聴かせどころたっぷりという趣き。さらにアンコールも5曲。まず、前回の来日の際にもやった、おそらくは定番なのだろう、三角関係の戦いを歌った曲(ガランチーノの歌?)。ピノ・デ・ヴィットリイオとの共演ではカスタネット鳴らしながらだったけれど、今回は一人で三役を熱演。つづいて今回のもう一つのプログラムから「高らかに打ち鳴らせ」。枢機卿の軍隊の歌なんだとか。最後はメンバー全員で唱和。なかなかいいね〜これ。で、次がチェンバロ伴奏で渋く歌う「オ・ソレ・ミオ」。これは声楽的な歌い方より聞きやすい。さらに今回のプログラムからカッチーニとステーファニの曲を再度。古楽という枠をとっぱらってみると、なかなか充実の2時間半(笑)。

投稿者 Masaki : 19:57

2008年05月12日

[古楽] ザビエル

『クアトロ・ラガッツィ』を読み始めたこともあって、少し前に購入し積ん聴だったサヴァール&ヘスペリオンXXIの『フランシスコ・ザビエル--東方への道』(AliaVox、AVSA98569)を聴く。ブックの体裁のSACDハイブリッド盤。昨年がザビエルの生誕500年だったのを記念しての企画盤らしいのだけれど、音楽家はともかく、教会関係で(聖人とか)生誕○○年というのはあまりない気がする。ということはひょっとして、日本からもちかけた企画かもね。日本語を含む5カ国語での「ブック」はなかなか本格的。ライナー的解説プラスアルファで人文主義関連の引用集がついている。活字の雰囲気がちょっと一昔前の本という感じ(苦笑)。で、曲目の方はというと、ザビエルの生涯の歩みに沿って、そのときどきに関連する曲を演奏していくというもので、さながら西欧から東洋へといたる音楽紀行の趣き。イベリアの逸名作者の曲から、「おお、栄光の聖母よ」(とその派生形の「おらしょ」版など)、モラーレスほかのミサなど。さらに篠笛や琵琶、尺八なども参加……といっても、混成セッションではない(当然だが)。古楽なだけに仕方がないとはいえ、インプロヴィゼーションも要所要所で入れているのだから、なにかこう、相互乗り入れがあってもよかったような……(でもまあ、CDの主旨からは逸れてしまうし、技術的な難しさもかなりのものだろうなあ)。それぞれの曲は実に堂々たる見事な演奏。なんだか企画ものにしておくのももったいないような気もする(笑)。

投稿者 Masaki : 22:31

2007年12月15日

[古楽] ゲレーロ

ゲレーロ(1528-99)『モテット「カンシオンとビリャネスカ」』(F.Guerrero: Motetes ''Canciones y Villanescas'' / La Colombina)を聴く。まさにこの時期に聴くにふさわしい一枚かも(笑)。ゲレーロは16世紀スペインを代表する作曲家。セビーリャ出身。楽譜の出版に精力的に携わり、さらにはエルサレムまでの巡礼の経験をもち、その冒険譚まで出版して人気を博したとのことで、どこか自由闊達で破天荒な印象を与える世俗的人物というイメージだ。けれどもそれと対照的というか(笑)、曲の美しさはなんとも印象的。このCDの収録曲「霊的なカンシオンとビリャネスカ」は代表作なのだそうな。ライナーによれば、伝統的なビリャネスカ(基本的には牧歌的な合唱曲&舞曲)を、詩的な表現力を大幅に加えて刷新したところが新しいのだという。確かにこれ、舞曲的な軽さ・軽やかさというふうではなく、とても観想的な曲の数々になっている。演奏はラ・コロンビーナという4人の声楽家グループ。なんとも美しいアンサンブル。

ジャケット絵はパチェコ・フランシスコ(1564-1644)の「ムーア人の捕虜を連れ帰るために乗船する聖ピエール・ノラスク」。フランシスコはベラスケスの師匠だった人物。題材となっている聖ピエール・ノラスク(1189-1256)は、カルカッソンヌ生まれの聖職者で、アルビジョア十字軍を避けてスペインに移り住んだ。サラセン人の捕虜となった人々を買い戻すために全財産を費やしたという。夢で聖母のお告げを聞き、捕虜解放のための修道会を開設したのだとか。なるほど、収録曲にもマリア信仰を歌い上げたものが多く含まれているという関連もあっての採択かな。

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投稿者 Masaki : 22:59

2007年09月29日

[古楽] ルニャール

このところ聴き惚れている感じなのが、チンクエチェントによるルニャール『オエニアーデのニンフにもとづくミサ曲(Missa super Oeniades Nymphae)』。ヤコブ・ルニャール(1540前半〜1599)は16世紀のフランドル楽派の一人。ライナーによると、なんでも音楽一家だそうで、ルニャールを含む5人の兄弟はいずれも各地の宮廷(おもにハプスブルク家ゆかりの)に仕えているという。ヤコブはちょうどラッススと同世代で、境遇的にも似通っているという。既知の間柄でもあったらしい。さすがにラッススに比べると知名度は低いものの、ルニャールの曲はなんとなくラッススよりもどこか鷹揚な(華やいだ?)印象を受けたのだけれど、ライナーによるとルニャールのほうがラッススよりも保守的なアプローチを取っているのだそうだ。

表題作はいわゆるパロディ・ミサ。もとの「オエニアーデのニンフ」は人文主義的な詩による世俗曲だろうとのことだけれど、すでに散逸しているのだという。CDには、ほかにもいくつかの小品が収録されていて、どれもなかなかに美しい旋律。演奏のチンクエチェントは男性6人から成る声楽グループだそうで、今後も期待される一団。全員出身国が違うというのが面白いかも(笑)。

ジャケット絵は、なんだか久々のアルチンボルド。なるほどアルチンボルドもルニャールの同世代人。マクシミリアン2世やルドルフ2世に仕えたあたりも共通しているわけか。これは四大元素シリーズから『火』。ウィーン美術史美術館所蔵。
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投稿者 Masaki : 23:54

2007年09月19日

[古楽] ナルバエス

習い事として7年目のルネサンスリュート。春くらいからはナルバエス「皇帝の歌」(ジョスカンの"Mille regrets")、夏前からはムダーラの「ファンタシア」など、このところスペインのビウエラ曲(本来は)を練習中。とはいえあまり上達はしていないが(苦笑)、やっぱり大陸ものはむちゃくちゃ良いなあと改めて思ったり……。で、そんな中、ナルバエスをギターで(ま、チェンバロ曲をピアノで弾くのと同じように、ビウエラ曲をギターで弾くのももちろんありなのだが)弾いている新譜を見つける。パブロ・マルケスによる『皇太子の音楽(Musica del Delphin)』(EMC NEW SERIES)。1538年に刊行された「ビウエラ演奏のための皇太子(デルフィン)の六巻の数字譜本(Los seys libros del Delphin de musica de cifra para taner vihuela)」から、「皇帝の歌」をも含む17曲を選んで収録している。表題のデルフィンは、ナルバエスが宮廷で仕えていたフェリペ皇太子(フェリペ2世)のことだろう。演奏はというと、大陸的な哀調はずいぶん抑え気味だし、ところどころギターっぽさもあるものの、全体的にはビウエラの雰囲気を創り上げていて割と好感。それにしても「皇帝の歌」のこのアップテンポはちょっと……(笑)(でも、いつぞやのホプキンソン・スミスの演奏なども結構速いテンポだったように記憶しているし、まあ、そういうのもありなのだろう)。でもこれを聴いて、やはり改めて、ナルバエスやムダーラはしばらく個人的にちゃんと取り組みたいと思った(下手でも!)。そのうちビウエラも入手したいよなあ。

投稿者 Masaki : 19:56

2007年08月19日

[古楽] テンプル騎士団の聖歌

最近は盆にあまり帰省していないのだが、前にも記したことがあるけれど、盆から秋のお彼岸あたりというと、うちの地元の禅宗の寺などではいわゆる「御栄歌」などを集団で歌ったりする。大人数での朗唱はちょっとした迫力。で、西欧でもこれを彷彿とさせるのは、なんといっても古い時代の聖歌だ。今回はおなじみマルセル・ペレーズ(一般にはペレスと表記されるが)のアンサンブル・オルガヌムによる『テンプル騎士団の聖歌(Le Chant des templiers)』(Naïve、ambrosie、AM9997)。収録曲はエルサレムの聖墓教会に伝わるとされる12世紀半ば以降の写本による聖歌で、アンティフォナやレスポンソリウムの数々。写本は19世紀に買い取られて、現在シャンティイの城に保管されているのだという。しかもこれ、当時のパリ楽派が使用していた記譜法で書かれているというのだから興味深い。フランス式の記譜法を取った12世紀の聖墓教会の歌とくれば、当然、当時の聖地の警護にあたっていたテンプル騎士団のことが思い起こされる。実際、テンプル騎士団は後世のイメージとは逆に、礼拝を司る僧侶と、細々とした実務を預かる騎士とに職能的に分かれていたようで、これらの曲が礼拝で歌われていたのはまず確かだろうという話。それにしてもアンサンブル・オルガヌムのパフォーマンスは期待通り。曲としてはわりと平坦な旋律だけれども、そこから響いてくる人間の声の複雑さはなんとも渋い。絶えず響いている通底音(ドローン)がまたいい。最後のアンティフォナ「salve regina」など、なかなかに感動的だ。

投稿者 Masaki : 22:52